「結婚、どう思う?」
他人にそう聞かれたら、100%の愛想「苦」笑いでこう答えると思う。
「失敗した人に聞いても、良いとは返さないでしょ」

彼の実家に引っ越し、家計を支えるため働く。心を重くしていった

私が結婚したのは、当時の彼と付き合って6年目を迎えた年。
元々中学の同級生だったので、成人式も一緒に出席し笑顔でツーショットの写真を撮った。
ふたりで実家を出て、狭いワンルームで暮らしていた。片付けができない同士、部屋は荒れ果てていたけれど幸せだった。

付き合って3年目、彼の実家が壊れた。
義母が借金を重ね、家のローンを滞納していて追い出される寸前だ。
義妹は当時受験生、義父の稼ぎだけでは高校に行かせてやれないかもしれない。そう伝えられた。
「俺は実家に帰って、家を支えなきゃいかん。お前も、ついて来てくれたらそりゃ嬉しい」
私は、今でもこの時の喜びを覚えている。
暗い表情を作りながら、内心は飛び跳ねていた。彼が、私を必要としてくれるなら!

彼の実家にふたりで引っ越し、家計を支えるために働く。
私はスーパーで働き、彼は工場で働いた。
「何で、彼氏の実家に住んでるのに結婚してないん?」
友人から何度も聞かれたこと。私も疑問ですけどー!なんて軽く返していたけど、本当はずっと心を重くしていた。

ある時、体調を崩した。
休職を経て、退職することになった。

時短で家にいる時間も増えたけれど、彼と話す時間は増えなかった

「あんな、結婚したらあんたの社会保険の扶養に入れるんよ。会社も、退職するけどお祝いくれるんやって。今しかないと思わん?」
口実ができた。本心ではそう思った。
彼は、どんな顔をしてどんな言葉をくれたか。今では思い出せない。

結婚してからも、生活は変わらない。
同棲していたときから、財布は別。ただ、どちらの財布を管理するのもわたし。
彼は実家に帰ってきてから、給料ががくんと下がった。わたしは無職になり、貯金生活。その中から、捻出しなければならない、家に入れるお金。
楽しく話せる日もあれば、喧嘩してまったく話さない日も増えた。

わたしは、数社で働き、結局元いたスーパーに復職した。
無理は出来ないだろう、と時短パートになり、家にいる時間も増えた。
ただ、彼と話す時間は増えなかった。

夏、入院をした。
めまいで立ち上がれなくなり、1週間。
ストレスが原因です。そう言われても見当がつかなかった。
ただ、彼が仕事前に時間を作り病室に毎日のように来てくれた。たくさん話した。結婚して、いちばん幸せだったのはあの時間だったかもしれない。

勧めるなんてことは万が一にも出来ないけれど、心のなかのわたしは

秋、彼が別のひとを好きになった。
わたしは泣き暴れた。義父にも、八つ当たりをしまくった。薬を大量に飲み、アルコールを摂取しないと眠れなくなった。止めていたタバコも吸い始めた。
「もう、疲れた。俺では、お前の面倒は見きれんわ」
彼がぽつりとつぶやいた。
冬を感じ始めた、雨の日。わたしは家を出た。

結婚してから、の話を思い返すとさいごの秋が強烈に染み付いてしまって。
どう思う?と問われても、苦い味しかしない。こんなに終わりが苦しいもの、始めなきゃよかったよとしか言えない。
勧めるなんてことは万が一にも出来ない。

ただ、心の中にいるもうひとりのわたしは、大きな声でずっと叫んでいる。
彼と一緒にいられるパスポートをもらったみたいで、幸せだったのは、嘘?
奥さん、って言われて恥ずかしくなりながら返事をしたのは、何?
実家が落ち着いたらまたふたりで暮らそう、どこに住もう、レイアウトは、はしゃいでいたのは、あれは?

苦しい、痛い、辛い。
幸せ、楽しい、嬉しい。

もう少し、耐え続けられたら、変わっていたかもしれない。
もうわたしには、「結婚」は昔のただの思い出です。