ある夜、不思議な夢を見た。妊娠が発覚して一ヶ月後に、玉のように美しい女の子の赤ちゃんが生まれる、という夢だった。
ひとりの新しい人生がもうじき始まる。わくわくが止まらなかった
目を覚ました私は、しばらく内容について考えてしまった。なぜならちょうどその時期、姉が結婚式をした数ヶ月後で、姉も両親も「赤ちゃんまだかなぁ」と少し焦りはじめ、私もそれに影響され少し心配していたからだった。だからそんな夢を見たのかなとも思ったし、もしかしたら姉が本当に授かるのかもしれないと思っていた。
その話を姉にするのはさすがに憚れて、とりあえず母に言ってみた。母も「そんなスピリチュアルな…」と呆れていたし、私もまさかと思いつつそれからちょうど2ヶ月が経つ頃に母と電話していると、「もしかしたらお姉ちゃん、赤ちゃんができたかも」と言われた。その時、私の夢はやっぱり予知夢というものだったのかもしれないと思った。
ひとりの新しい人生がもうじき始まろうという気配に、わくわくが止まらなかった。当時25歳だった私は、赤ちゃんが私と同じ年齢になるとき、ちょうど50歳になる。私の25年間は色んなことがあった。赤ちゃんは、どんな人生を歩むのだろう。
私は愛しい気持ちを思い出したい。姪には辛いときに読んでほしい
姉が臨月を迎える頃、私は幸いにも長期休暇で実家に帰ってこられた。毎日少しずつ変化する姉のお腹に、胎動を感じたり見たりすると、愛おしい気持ちが溢れて止まらなかった。今まで赤ちゃんを可愛いと思うことはあっても、愛おしいと思ったことはなかったので、自分と血の繋がった子はこんなにも愛おしく思えるのかと驚きだった。まだ産まれてもいないのに、可愛くてしょうがなかった。そして将来大きくなってからも、死ぬまで愛し続けたいと思った。
実は私は近くに住んでいる伯母とは、もう何年も口をきいていない。いつからか会って目が合っても、挨拶もしないような間柄になってしまった。原因は幾つかある。彼女は弟である私の父とも不仲だし、彼女自身の性格にも問題はあるのだろう。でも昔は映画に連れて行ってもらったりして、2人で時々出かけていたのだが、私の思春期の不安定な時期からはそんなことも全く無くなってしまった。
血縁関係があるからこそ、距離感を保つのは難しいのだと思う。私自身も血が繋がった家族なんだから理解して欲しいと甘えた気持ちもあったし、きっと伯母自身もそうなのだろう。できるものなら、伯母とも仲良しでいたかった。だからこそ、私は姪とはずっと仲良くしていたいと思う。もちろん彼女にもいつか思春期が来るだろう。もしぶつかってこられたら、受け止められるような大人になりたいと思った。
このエッセイは、未来の自分と姪に宛てたラブレターだ。私もこのエッセイを読む度に、姪がお腹にいる時から感じていた愛しい気持ちを思い出すことができるし、姪ももし辛いことや孤独に苛まれるようなことがあったら、これを見つけられたらいいなと思う。
存在自体が希望で、幸せになった。姪がいるだけで全員が笑顔になった
姪が姉のお腹にやってきた時、私たち家族に幸せを運んできてくれた。どんな顔なんだろう。性格はどんなだろう。音楽は好きかな。おしゃべりは好きかな。彼女のあらゆることを想像しては、嬉しい気持ちに包まれていた。姪は予定日もずいぶん過ぎてから誕生した。みんな夜中ぐらいに生まれるだろうと予想していたので、全員が悠長に過ごしていた時、突然姉から「生まれたよ~」とメッセージが生まれたての姪の写真とともに送られてきて、全員が驚いたのだった。
それから数日間の入院を経て我が家に帰ってきた姪は、想像よりも小さかった。無防備に出ていた素足に引き寄せられるように触ると、信じられないくらい柔らかくてすべすべだった。生まれたての赤ちゃんってこんなに柔らかいのか。そしてとってもいい匂いする、と感動だった。
生まれてきてくれて、ありがとう。無事に育ってくれるだけでも、神様に感謝したくなる。存在自体が家族の希望で、幸せになった。姪がいるだけで全員が笑顔になった。みんなの、宝物だ。
姪が生まれたことで、守ってあげたいと思える人に初めて出会うことができた。人は無事に生まれて成長してくれるだけで、人間としての使命を果たせている気がする。誰かは誰かの大切な宝物で、粗末に扱っていい人なんてこの世界には1人もいないのだ。姪も生きていたら苦しみや悲しみにも、きっと出合っていくだろう。でもひとりじゃない。私は彼女が逃げたくなったらいつでも駆け込めるように、静かに待っていてあげたいと思う。