ギリギリである。なにがって年だ。もうギリギリなのである。
女はクリスマスケーキなどと昭和のおじさんたちが言い出したようなくそったれた戯言をいうつもりはないが、私は今月で晴れて29になる。
たかが20代。されど20代。婚活市場で女の付加価値のひとつに、どうしたって年があげられる。
一昨年まではこんなこと言わなかった。
26になるときは12cmのヒールデビューしたし、27になるときは全身脱毛に挑戦した。女の階段を昇るのが人より遅い私だったが、いつだって焦らず悩まずのんびり階段を昇って行った。
合コン?出会い系?知ったことか。私は私のしたいおしゃれをし、休日は行きたいカフェで好きなだけ読書をする。そこに気の合う友人がいたら尚たのしいし、いなくても街並みを眺めてるだけでわくわくする。
そんな気儘な独身人生をおくってきた。そこは静かで穏やかで、刺激がない代わりに悲しみもなかった。せいぜいアニメの推しが死んだときぐらいだ。体の水分がなくなり身がよじれるほど泣いたのは。
1年で愛を見つけるという簡単なはずのミッション
2020年、敬愛する母の教えを胸に、私はひとつ抱負をかかげた。
すなわち「恋人をみつける」だ。いわゆる婚活である。
生まれてこのかた、画面越しの推し以外の恋人はおろか想い人もいなかった私だったが、家族とはよいものだ。そんなこと恋人がいなくてもわかるものだ。
画面越しの推しと触れ合う方法は、残念ながら今後30年は見つからなさそうなので、とりあえず結婚を前提とした恋人探しから始めることにした。
なぁに、恋ならともかく探すのは愛である。情愛である必要はない。友愛だろうが親愛だろうが、家族になれそうな人をみつけることなら、この女28年やや劣等生でもなんとかなるだろう、とたかをくくった。期限は1年。簡単なはずのミッションだった。
さて、この1年。なにがあったか諸兄おわかりだろう。
そうです、コロナですね。このコロナくそ野郎のせいで、婚活初心者にどれだけの嵐に見舞われたことか、考えるまでもなくおわかりですね。
まず人がいない。とにかく人がいない。
最初の3ヶ月はよかった。婚活をつづけている歴戦の猛者の男性諸君がなまぬるく私を歓待してくれた。結婚相談所にて、担当さんとスマートフォン片手にあれやこれやアドバイスをきいたのも懐かしい思い出。
たくさんの人に会って、くじけそうになりながらついに見つけた恋人
とにかくたくさんの人に会った。会う人がいなくなると条件をかえた。
しかし3ヶ月もたつとニューメンバーはいなくなった。画面を更新しても映るのは見慣れた顔ぶれ。あら、あなた、まだいらっしゃったの?まぁ、あなたも?私もなのよ、と画面越しに独り言。
なんだこれは?婚活前に2次元の推しと語りかけていたのと同じではないか?
ややくじけそうになりながらも、それからプラス半年間。
いろんな男性にあったり、デートしたりしつつ、ついに恋人をみつけた。
体型はやや(嘘、かなり)ぽっちゃり。高学歴、おだやかな性格の次男、市役所づとめ。私史上考えられるかぎりの好条件だった。しかも誠実で女慣れしていない人だった。
最初はラインのメッセージ交換からはじめて、デートを繰り返し、クリスマスにはお泊りデート。そして正月。
正月、私は彼に距離をおこうと告げようとしている。理由はなぜか。なぜダメなのか。男っ気のない女28歳の最後のチャンス(かもしれない)を棒にふるのはどうしてなのか。
理由はただひとつ。「愛してる」が言えないからだ。
結婚観と恋愛観にはさまれてギリギリまで追い込まれる私のこころ
彼は誠実な人である。恋愛経験のない私に歩調を合わせようとはしてくれている。それでいて「すきだよ」などとの言葉は欠かさず、メッセージも送れば返してくれるが、不用意に何度も送ったりはしてこない。
素敵な人なのだ。わかっているのだ。両親にも友人にも占い師にも言われた。結婚などとは契約なのだから、いい人がいれば勢いで結婚して、あとはうまくころがせばいい。
はい、もう耳がたこです。わかってます。
ギリギリなのである。なにがって私のこころが。もう結婚観と恋愛観にはさまれてギリギリなのだ。
この年になっていまだに恋愛に憧れてるとは思わなかった。もうびっくりである。
知らない間に居座っていた私の中の乙女が叫ぶ。
「愛してるって言える人といっしょにいたい!」
沢山の人の言葉をきいて、たくさん自分の中で自分と話し合って、私は私の中の乙女に、そうだね、とこたえることにした。
ひとまず、「そうだね、まだ頑張ってみよう」と。
29歳はギリギリだ。もう「若い女の子」なんて口が裂けても言えないし、でも「おばさん」だなんて絶対言われたくない。
婚活市場じゃ売れ残り間近だし。もうひしひしと危機感を覚える。でもそれだって、妥協したくないとおもっちゃったのだ。だって私の人生なんだもん。
2021私の宣言「愛してると言える人をみつける」
ちなみに、彼とはまだ別れていない。もしかしたら、案外すんなり愛しちゃうかもしれない。