道路に落ちた私の影の頭が、一定のリズムで規則正しく止まること無く動いている。まるで泳いでいるクラゲのように見えた。一定のリズムで規則正しく止まること無く泳いでいる。
母に言われた一言で、ロングヘアを維持してきた
私は母の意見に納得していた。
「彼氏もいないのに髪なんか切ったら余計に女子力下がるからやめなさいよ」
小学校からの同級生ばかりが集まる小さな中学校に通っていた私は中学生時代に異性に関心を持つことは無く、高校生になってから初めて異性というものを意識をするようになった。
周りの女の子のサラサラな髪の毛、細い手足、綺麗な肌、ほのかに香る甘い香りに少しでも近づけるようにと短かった髪を伸ばし始めた。
髪の長さに比例するように女性レベルも伸びたように思え、ありがたいことに彼氏もでき、自分なりに高校生活を謳歌したと思っている。
それから月日は流れ、気がつけば私はアラサーになっていた。
高校生から伸ばし始めた髪は美容院に行っても数センチ切る程度でロングヘアを未だ維持している。
その理由は母に言われた一言。
バッサリとショートヘアに。想像以上に素敵な仕上がりだった
私は現在彼氏がいない。最後にまともに男性と付き合ったのは6年前になるだろうか。
6年という時間は私に私自身という存在を見せつけてくれた。私は所謂、こじらせ女子だ。
女子という言葉をアラサーの女が使用して良いのかも分からないが私はひどく恋愛を自分自身でややこしくしているタイプの人間だと思う。
だからこそ、私を産まれた時から知る母からの意見は無視することができなかった。
私は少しマザコンの毛があるかもしれない。
「髪を短く切るのなんて、彼氏ができてからにしなさいよ」
でも、ある日私は無性に髪を切りたくなった。
男とか女とかモテるだとか女子力だとか、そんなものは一切関係なく、ただただ無性に髪が切りたくなってしまった。
腰近くまであるスーパーロングヘアを揺らし、思いつきのままに買い物途中の渋谷で目に止まった美容院に入り、「肩につかないくらいのショートヘアで」と美容師さんにお願いした。
私を担当してくれた男性美容師は「ほんとに良いんですよね?初めて入る美容室でバッサリ切るってすごいっすね」と笑っていた。
少し引いていたのかもしれない。
男性美容師は手際良くハサミを動かし、完成した鏡の中の私は注文通りの髪型で自分が想像していたよりもとても素敵な仕上がりになっていた。
ロングヘア時代が長かったせいか勝手に「ショートヘアはもう似合わない」と決めつけを持っていたが変化というものは凄く良いな、と思わされた瞬間だった。
たまたま出会えた腕の良い美容師さんに感謝したい。
自分の可能性を、知らないうちに自分で抑えていることが多い
そして髪を切るということだけで見える景色の変化に気付く。自分の心の変化に気付く。
まだ知らない自分に会いたいと思う。
これはキッカケに過ぎず、はじめの一歩に過ぎない。
生きていると自分の可能性を知らないうちに自分で抑えていることが意外と多い。他人の意見に左右されることも多い。けれど本当は正解や不正解などこの世に無く、何事も自分が楽しいか楽しくないか、だけの基準で判断することが1番後悔の残らない楽しい生き方ができるような気がする。それが自分を愛することにも繋がるのだろうし、他人を愛することは自分を愛することから始まるのだからこれは凄く重要なことに思える。
そんな自分を見直すキッカケをくれたクラゲに感謝をしたい。
今日もコンクリートに泳ぐ私の頭の影は規則正しく泳ぎ続ける。