「まま、世界で一番だーいすきだよ」
「ままもよ。大きくなって、ままより好きな人ができたら結婚しなさいね」
「そんな人できるかなぁ。ままが一番だもん!」
夜が嫌いだった私は、寝る前のベッドでの母との談笑の時間を引き延ばそうと一日幼稚園で起こったことを事細かに話した後、部屋の明かりを消してからよくこんな会話を母としたものだ。
これまでの気軽な恋愛は、ときめく良い思い出ばかり
社会人5年目。27歳。自分ではまだ若造だと思っていても、世間的に見れば"アラサー"と呼ばれる年齢になった。背が小さくて童顔だけど、気づけばお酒を買う時に年齢確認されることもなくなった。
Facebookを開くと、学生時代の友達の結婚、出産報告が眩しい。心の底からおめでとうという気持ちと、人の幸せを疎む人にはならないぞ、という意固地な信念が相まって、こうした友達の投稿には必ず瞬間的に"いいね"を押してしまう。
学生時代も社会人になってからも、それなりに色んな人とお付き合いを重ねてきた。一目惚れの人もいたし、部活姿に憧れた人もいた。今までは、お互いの足りない所を一つずつ許していくような真剣に向き合った関係ではなく、ときめくことが多い人とのいわゆる"恋愛"ばかりだった。
1年未満の短い付き合いばかりだったけど、どれもが学生時代の数々のイベントと記憶が結びついて良い思い出ばかりだ。
お金使わずに河原でよく話してたな。男の人との喧嘩後の仲直り方法を覚えたのはあの頃だっけ。温泉旅行で布団をくっつけるのはずかしかったな…。
彼がふと、「世界で一番大好きだよ」と言った
年始。結婚の挨拶ではないけれど、今お付き合いしている彼が、実家に遊びにきた。
少し緊張した面持ちの父と、嬉しそうな母。父は昼間からハイペースで酎ハイを飲んでいた。母はいつもより沢山料理を作って、いつもは身体に気をつけて食べないケーキを買ってきて、終始、子犬の様に楽しそうにころころ笑っていた。
彼が帰った後、父はお酒のせいかソファでうとうとしていた。不規則にリズムを刻む父の背中を見ながらぼぉっと、父はどう思ってるのだろうかと考えていた。
一人娘が巣立つ日が近いと感じで寂しいのかそれとも嬉しいのか。すると背後から母が「あんな人がお婿さんになってくれたらいいわね」と呟いた。私は、なんだか気恥ずかしくて聞こえないふりをした。
先週の日曜日。寒波で悴む手と手をしっかりと繋いで彼と東京駅前を歩いていた時。彼がふと、「世界で一番大好きだよ」と言った。「私も」咄嗟に答えた。最近、彼はよくこの言葉を私に伝えてくれる。
まま、私にも大好きな人ができたよ。でも、ままより大好きかどうかって聞かれると分からないよ。この先もずっとそんな気がするよ。
背格好が似ている母と私は、よく服の貸し借りをする。その日も、私は母のセーターに身を纏っていた。