「努力には、才能がいる」
そういう言葉を聞いた。でも、努力に必要なのは才能なんかより「努力できる環境」だと思う。
昨今某オーディション番組のアイドルが人気だが、私はあの番組が本当に苦手だ。彼女たちは何も悪くない。夢に向かって努力する姿は尊敬するし、今後も頑張って欲しいと思う。

でもダメなのだ。若い子が頑張ってるのを見ると、私はその人たちが羨ましくて仕方ない。
「いいよね、あなたたちは。努力させてもらえる環境があるんだね」
そう妬んでしまう。
子供の夢を馬鹿にせず、頑張れ、と言ってくれる。それに後押しされて子供は自分の夢をどう叶えたらいいか考えて、努力する。

たったそれだけのことなのに、私はそれを一度も経験できず大人になった。

「父に殺される」そう怯えた私は今でもうまく眠れない

父はパチンコにはまり、定職につかず、その日の機嫌で私たち子供に八つ当たりする。母は、仕事に夢中で子供の話を真剣に聞く余裕がない。(今思うと、母一人の収入で私たちを養わなければいけなかったから母は母で必死だったのだろう。でもそれも結果論でしかない)

私は毎日、父の機嫌を気にして生きなければいけなかった。
辛かった。いつも怯えていた。父の機嫌が悪いと何が起こるか分からないから、子供の私は毎晩本気で「寝ている間に父に殺されるかもしれない」と考えていた。その時から、私の不眠はずっと治らない。

母はいつも、「親に殺されると考えるなんて頭がおかしい」と言った。学校の先生には取り合ってもらえなかった。私が子供だったせいで、うまく伝わるように言えなかったのかもしれない。でも誰も、何も、助けてくれなかった。

「自分の話を聞いてもらえる」という経験は努力する力になる

そして不幸なことに、何かやりたいことができてもいつも否定された。吹奏楽の強い学校で部活を頑張りたいといえば、将来プロになるわけでもないのに無駄と言われ、大学で舞台芸術を学びたいといえば、将来に役立たないから無駄だと言われた。小学生の時から、俳優や声優、アイドルなど人前にたつ仕事がしたかった。でも、私の夢は他の子供の夢とは同じように扱ってもらえなかった。

「お前には無理、あんなの選ばれた人しかできない」

太刀打ちできなかった。誰か一人でも、一人でも、子供の戯言に真剣に耳を傾けてくれたら!
私がアイドルや俳優になれた可能性があったとか、そういう話じゃない。ただ、子供のいうことを少しでも真面目に取り合ってくれたら、それだけで子供は自分が生きていることを信じられるのだ。その子が結局会社員になったとしても、「自分の話を聞いてくれる人がいた」という実感は、それだけで努力する力になることを私は知っている。

努力できるあの子を見て思う「この子には話を聞いてくれる人がいる」

結局、若干勉強ができたせいで、「私は芸術なんて身にならないものじゃなくて、勉強をして、世の中を賢く生きるんだ」と無理やり自分を押さえ込んで大学まで進学した。くだらない。
成功したアイドルや俳優のインタビューで「親の反対を押し切って、自分でバイトしてお金を貯めて養成所に通いました」という人がいる。
どうして私もそうできなかったのだろう!親の反対なんて、些細なことだったのに、今の私なら絶対にそんなの無視できるのに!結局大学進学も自分でお金を工面して、今も奨学金の返済に苦しんでいるのだ。そんなんだったらやりたいことをやって苦しみたかった。

でも、当時の私はそんなことできっこなかった。分かるのだ。だって生きることに精一杯だったから。父の機嫌を気にして、怒鳴られないことに神経を張り巡らせていた。その辛さは分かってもらえることなく積もるばかりで、消えてしまいたいといつも思っていた。そんな中、決死の覚悟で打ち明けたことは全て否定されるのだ。子供だった私には、そこから這い上がるほどのエネルギーは残っていなかった。

だから、今若くして努力できる子を見ると羨ましくてたまらない。「この子には、親か、あるいは周りの大人に、夢を後押ししてくれる人がいるんだ」と思う。私にはなかった素晴らしい環境を、この子はこんな若いのに持っているのだ、と。

悔しい。でも私はもう大人だから、私が私の話を聞いてあげる

だってきっと、彼らの大半が経験したことないでしょ。「お前の相槌が気に入らない」と言われてテーブルをひっくり返されて夕食がなくなったことも、田舎の何もない道にいきなり置き去りにされたことも。そんな日常の中で、やっと見つけた自分のやりたいことには誰も取り合ってくれなくて、それでも「何くそ」って頑張れる?12歳、13歳で。無理でしょ。

悔しい。悔しくてたまらない。でも、私は残念ながらもう立派な大人だから、人生を自分の責任で生きていくしかない。この悔しさも、嫉妬も、全部、全部私がこの先の未来を生きる糧にするしかないのだ。だから私は考える、言葉にする。向き合うと決めた。そしてこれから先、私自身にどんな思いが生まれても、それをまずは受け止める。自分の想いを誰にも否定させない。

私は私の言葉を絶対に蔑ろにしない。

それがきっと、子供の時の哀れな私を救う、唯一の方法なんだと、信じている。