予想を裏切られて、落ち込むかと思いきや、幸せが見つかる瞬間。私はこんな瞬間を日常から切り取れる感性に恵まれていると思う。
穴場の喫茶店で、センチメンタルな素敵な朝にニンマリ
私はおしゃれなカフェよりもしっとりとした純喫茶が好きで、そして幸運なことに純喫茶が好きな友人を持っている。
ある週末、彼女の買い物に付き合う日も、せっかくだったら早めに起きてモーニング行こうと、気になる喫茶店にピンを立てていた。初めて降り立つ駅でマップを頼りに歩いてみると、着いた場所はなんだか暗くて扉が閉じていた。ネットでは土曜の8時から営業とあるけれど、純喫茶がマップの営業時間と一致していなくても仕方がないか。だけど山と住宅地しかなさそうなこの駅周辺で、開いているお店なんてあるのだろうか。
そんな不安をちょっぴり抱えながらもぶらぶらと歩くうちに、文字がかすれてなんとか読み取れるような読み取れないような看板の、とても年季が入った喫茶店に出会った。
緊張しながらカランカランとドアを開けると、優しそうな店主さんが、きっとご近所の方だろうなという明るいお客さんとおしゃべり中。こういう地元感溢れるお店にはお邪魔しますという気持ちで恐縮そうに腰を掛けてしまう。
「モーニングはありますか?」と聞くと「パンとコーヒーだけやけど大丈夫?」と出してくれたのはじゅわっとバターが馴染むトーストと、深煎りのコーヒー。これ以上シンプルでかつ、これ以上洗練された朝ごはんはなかなかないと思う。
サクサクのトーストを頬張る途中で、「あ!これもあったから食べな」とレトロなプラスチック容器にギザギザ銀紙のヨーグルトまで登場。「はあ、懐かしい、嬉しい、この時間幸福すぎる」と声に出さなくとも友人と目を合わせてニヤければテレパシー。
その後友人がずっと恋していた手作りで出来た金細工のピンキーリングを一緒にお迎えし、帰りの電車に乗っていると、突然雨が降ってきてしまった。
友人の最寄り駅に着く頃には小走りで帰れるような具合とはかけ離れたざーざー降りになっていて、雨雲レーダーによると後小一時間はこの様子が続くらしい。私達はたまたま改札口から10歩の距離にある喫茶店を見つけ、雨宿りをすることにした。
期せずして見つけた味と景色と7色の光
私達と同じような駆け込みのお客さんがいたのだろうか、一階が満席だったため二階に通してもらい、冷え切った体を温めるかとメニューを開くと見慣れない単語の並びが心拍数を上げる。
迷いに迷った末に、ラブリーなメニュー名は忘れてしまったけれどホイップクリームがちょこんと蓋をしたミルクティーがやって来た。一口飲むとほんのりさわやかな香りがして不思議に思い、二口目ではごろっとしたオレンジの果肉が口で踊る。ミルクティー×ホイップクリーム×オレンジがこんなに絶妙な美味しさを生むなんて。昼ドラにも負けない三角関係だ。
そんなこんなで一時間が経ち、窓の外も明るく晴れてきた。お会計をするために一階に降りる階段の途中で、さっきは気づかなかったエメラルドグリーンとルビー色の溶け合ったきらきらとした灯りに目を奪われる。外から光が差し込むとステンドグラスがこんなにも輝くだなんて、どうして今まで知らなかったのだろう。
友人に別れを告げ、最寄り駅までの電車に揺られていると、メッセージが届いた。さっき別れたばかりなのに何だろうと思いながら開くと、柔らかく空にかける大きな虹の写真だった。友人が虹を見れたことも、そしてその小さな喜びの瞬間を共有してくれたことにも思わず笑顔がこぼれてしまう。
行く計画だったコーヒーの種類が豊富で小綺麗な喫茶店にももちろん行きたかったけれど、あそこが閉まっていたおかげでこの暖かくて何故だか懐かしいお店に出会えた。
傘を持っていない中で急な雨が降ってしまったけれど、雨宿りで素敵な喫茶店に入り、雨上がりに虹まで見ることができた。思いがけないハプニングはまさかのギフトをもたらしてくれるし、私はこんな瞬間がたまらなく、たまらなく愛しいと感じる。