彼からプロポーズをされた時、私はどん底にいた。
これまで私がいろんなことを賭して取り組んできたことに対し、「そんなん無駄だからもうやめろ。俺が責任とるから。結婚しよう」
というものだった。

周りは私の進路に期待を寄せてくれる人と、とっとと辞めて結婚しちまえの二つに別れていた。
その後者の方から遠回しにちくちく言われ、分かっていたのに拒絶してきた。
こういう人こそ本当に私のことを考えてくれていたのに。
女だからできないと、私の根性不足だと言われているような気がしていたのだ。そんなのは関係なかったのに。

ここまで私のことを考えてくれる人は他になかった

好きで始めたはずが、いつしか周りに見られるために代わっていた。
成果より、どれだけ歓声を集められるか、立派だと思われるかが重要になっていた。
そんな恥ずかしくて屈辱的なことは誰から言われても無視してきた。
今までの努力はなんだったのか。こんなことのためだったのか。私はこの程度だったのか。
認めたくなかったが認めないほど深みに填っていった。
こうして心身のバランスを崩していく様子を見るに耐えなくてこう言ったのだろう。他の人はまぁ思っていたってこんなことを直接は言えない。

もう結婚するしか道がない状態になってしまった私は、相手も彼以外に考えられなかったしそうすることにした。
ここまで私と向き合って、私のことを考えてくれる人は他になかったし、単純に理由はよくわからないけど他の誰より好きだと思った。

あれはやめろ、これもやめろ。
仕事もほどほどに。また突っ込まないか心配だ。
こんなことは言わせる私が悪いんだけど、細かく口出しする彼をどうかと思う人がいるのもわからなくはない。

一応言っておくと、支配しようとしてこんなことを言うのではなく、自分が目を離した隙に私がどうかなってしまわないと心配でならないのだ。
実際私の憔悴しきった姿はひどかった。
親しい人がああなったらと思うととても黙ってはいられないのだろう。自分の彼女ならなおさらだ。
そんな当たり前のことに胸が締め付けられるあたり、私はまだ恋愛すらよくわかっていないようだ。

他に幸せになる方法はある。それでも私は結婚を選びたい

お互い不器用だから、どちらかが働いてどちらかが専業主夫(婦)になった方がいいという話になり、私が仕事を譲った。
いろいろあって私は働けなくなったのにコロナで結婚の話は進まない。

私の両親は、家で見るから安心してくれと彼を送り出した。罪悪感もあるようだったが、それを覚えることがないよう私も笑顔で送り出した。
連絡は取れているけど寂しい時はあるし、アルバイトが落ち着くまでは多少の金銭的な厳しさも感じていた。いろんなことの苦しさを彼のせいにすることもあった。

友人の一部は、そんな人やめたら?という。
もっといい人いるよ、とも。
できれば説得したいが、実際そうもいかないからなんとなく流す。
あんまりひどければそういう子と疎遠になるのももう仕方ないと思っている私は末期なんだろうか。
でも、この考えを曲げるつもりはない。

私は恋愛では、性格というよりキャラクターで好きになられることが多い。
私だってまさかありのままの自分で常に過ごしているわけじゃない。
何かのキャラクターじゃないんだから、いつも笑顔で元気になんていられない。
だから気を許すとすぐに愛想を尽かされる。

付き合っているのに、心情なんか理解されなかった。
おまけに私はめんどくさい。素で付き合える人なんていない。
「私」を愛してくれる人なんていないんじゃないか。そう思っていた。
そんな中ここまで受け入れてくれたのは彼くらいだった。初めて味わう安心感があった。

結婚したら、今まで以上に相手のことを考えなければならない。
食事、家事、生活でも相手のことを考えて気を配らないといけない。
そういうものなのだと聞いた。

私はずっと自分のことだけを考えていた。
きっとそれはそれでいいんだろうけれど、結婚するならそれは良くないんだろうな。

結婚前から苦労が絶えなくて、結婚してもきっと苦労はあって、周りの友達との考えも場合によってはずれてくるのだろう。
それでも私はこんなに幸せなことは他にないと思う。
今の時代、他にいくらでも幸せになる方法はある。それでも私は結婚という幸せを選びたいのだ。

私は彼が好きになってくれた私という人間を信じたい

周りの「結婚は?」と言う声に辟易している人をよく見る。
ここからは憶測になるけれど、多分結婚は意外にもちょっと頑張らなければならないことがたくさんある。
何より必要なのは自分に対する妥協。許してあげることだ。これが案外難しい。

自分のしたい!だけを追い求めていたら結婚ってできないものだと思う。
だから、結婚は本来周りが無理に勧めなければする気にもなれないものなんじゃないかなと。
私も小さい頃の刷り込みあってこそだ。
それでも最初は踏ん切りがつかなかった。

その気持ちを固めた出来事がある。
たまたま仕事をする彼の姿を見たことだった。
いつもは大きく見える背中が、少しだけ頼りなく小さく見えた。

仕事には一生懸命で、周りからも信頼されている彼は、それでも孤独と戦っているのだ。
私なんかとは比べ物にならないくらい大きなものを背負っているのだと察した。
仕事はこなすだけで、そのくせ役割に徹することもできない私じゃ敵わないわけだ。

ちょっと不器用で、でも一生懸命で、私を愛してくれるこの人を、一生守って行こうと思った。そのために私の人生を使ってあげてもいいかなと。
そう決めたくせに自分のことばかり優先してたバカな私だけど。

たまに自分に自信がなくなって、この人の隣にいていいのだろうかと縮こまってしまうけれど、私は彼が好きになってくれた私という人間を信じたい。
そしてこれからも一緒に居られるよう、まずは一人の生活と向き合おう。
また会えた時にとびきりの笑顔で応えられるように。