27歳の秋。私はマッチングアプリで婚活をしていた。
これ以上一人で泣きたくない。婚活に賭けた想いはそれだけ。

運命の人と出会って、永遠を誓い合って。素敵な王子様とずっと幸せに暮らすのだ。

私はマッチングアプリで一人の男性と出会った。
彼はイエローブラウンの髪にオリーブグリーンの瞳の外国人。

今の恋人。とりあえずは婚約中である。

「婚約中」ってことは、結婚しようと言われてオーケーした、ってことなんだけどね。

真剣に自分を顧みて、将来設計までちゃんと考えている人はたくさんいる。
結婚に対して漠然と幸せなイメージはあったけど、私は婚活に魂を燃やしていたわけじゃないし、本当は、「婚活」ではなく「恋活」の方の人間だったのかもしれない。

アプリで出会った彼の目標は結婚前提の真剣交際で、その共有対象が私

そんな軽い気持ちだった私が、初めて結婚を意識したのは、今の恋人とアプリでマッチングして、数日後のメッセージだった。それまでは、他愛ない旅行の話とか、好きなものの話とかが続いていて、気が合うなあ~、なんてイイカンジになってきた頃である。

「このアプリでの目標は何?」

そんなメッセージを受け取ってしまった私は、頭を抱えた。

彼はアプリのプロフィールに、子どもが欲しいとか、日本人と結婚したいとか書いていたのだ。
つまり、彼の目標は一つしかない。

結婚を前提とした真剣交際である。

そして、その目標を共有しようとしているということは、その対象が、私なのだ。
それまでゆるゆるモードだった私だが、冷や水を被せられたみたいに、一気に焦った。
自分の「結婚」への認識の甘さに気づいたのも、この時。
え!? 私の結婚観、フワフワすぎ!?
本当に結婚するの!?
私の王子様って外国人!!?

軽くパニックになって、「結婚ってなに???」と親友に質問したり、普段行かないカフェで一時間半頭を抱えたりした。

彼は結婚を意識している。私を「女」として見ているのだ。
それは、のほほんと平和に生きてきたアラサーには、大変な衝撃であった。

両親から愛され、実家暮らし。「子供部屋おばさん」だった

ところで、「子供部屋おじさん」という言葉を知っているだろうか。
妙齢を過ぎても自立せず、子供の頃から使った実家の部屋で生活するような独身男性のことである。

当時の私も実家暮らしで、まさに「子供部屋おばさん」であった。

子供の頃から使った部屋や優しい両親の元で生活していると、いつまで経っても「娘」であるような気がする。
私は27歳。現実を見渡せば、周囲には結婚して子供のいる人も少なくない年齢だ。

彼氏ができたことで、外出が多くなり、自然と「子供部屋」を空けることが多くなった。家族と離れている時間も増え、オリーブグリーンの瞳と見つめ合っている時間が長くなった。

私はずっと、両親から愛された「娘」だった。
けれど、恋人の前では違う。私は、彼の前では一人の「女」なのだ。

父や母の大事な「娘」から、1人の男性の「妻」になるまであと数ヶ月

求婚をオーケーした後、彼のスマホを覗いたら、私のことを「妻」と登録していて笑ってしまった。
国際結婚をするには、大使館の書類とやらが必要で、私たちはまだ書類上婚姻関係になっていない。けれどそれの問題は数ヶ月以内に解消する予定だ。

私はこの男の「妻」になる。
父や母の大事な「娘」から、一人の男性の「妻」へと変わっていく。

あまり深刻なことを考えない女の所感であるが、それは蝶の羽化に似ていると思う。
上手く飛べるのかは分からない。結婚した後の世界も分からない。
けれど私には、愛しい人がいるから大丈夫だ。

結婚して「娘」から「妻」になるまで、あと数ヶ月。
私はサナギのような彼の腕の中で、美しく羽ばたく日の夢を見る。