社会人になってから、歳を重ねることをネガティブに捉えるようになった。「お肌の曲がり角」などという言葉があるように、これまで手を抜いていたスキンケアのツケが回って来たり、暴飲暴食をした分だけ体重は増えるし、常に目の下にはクマが常駐している。やはり年齢と共に、見た目の変化はかなり大きい。
それと同時に、職場でも若手から中堅へと立場が変わり、いつの間にか環境に慣れ、「挑戦」というものから遠ざかり、安定にすがりつき退屈な人間になってしまっているように感じる。そんな時に、私は思い出す言葉がある。
「人間は30歳から」
私にこの言葉をくれたのは、学生時代にアルバイトをしていた、デザイン会社の社長だ。その当時の私は、能動的で、知らない世界へ飛び込み、様々なことに挑戦する友人が周りに多く、その1人になるべく必死だった。それと同時に、卒業後の進路にも悩んでいる時期だった。
ある日の休憩時間に、社長がランチへ連れ出してくれた時のこと。私の心を見透かしていたのだろうか。社長は真っ直ぐとこちらを見て、ゆっくりと話し始めた。
「若い頃に色々な経験をすることは、とても大事なこと。でも、僕が一緒に働きたいと思う人は、みんな30歳以上の人。20代じゃあ、まだ人間力が身に付いていない。人として面白いのは30歳を越えてからだよ」
その言葉に、安心感を覚えたことを今でも、はっきりと覚えている。
全国にいる友人たちが、それぞれ自分の好きな分野で活躍している姿を見ると、純粋に格好良いと思う。一方で、自分の置かれている状況と比較し、羨ましさを感じる時もあった。
それでも、その感情だけに引っ張られることなく、自分に与えられた仕事をこなし、会社へ貢献することに徹した。
その中で学んだことは、実務だけではない。上司や先輩の背中を見て、人との繋がりや接し方、ある意味で仕事の枠を越え、今後の生き方を考えるきっかけともなった。
私は今、新卒で入社した一般企業で、次長として働いている。学生時代に夢見た、キラッと輝く仕事ではないし、都会にも住んでいないけれど、社会人としての基本的な知識、部下を育てること、慣れ親しんだ土地から離れての暮らし、仕事もプライベートも充実している。まだまだ、学ぶことは沢山ある。それでも、様々な経験をすることで、10年前よりは確実に人間として成長したと実感している。
青臭かった学生時代に頂いたあの言葉と共に、20代を駆け抜けてきた。
そして私は、来年30歳になる。ひらめきに年齢は関係ない。今よりも、もっと面白い人間になれるよう、日々人間力磨きに精を出している。明日は今日よりも、理想の自分に近付いているように。