ある研究によると失恋から3ヶ月経てば70%の人は立ち直ることができるらしい。ある研究によると失恋して半年経っても立ち直れない人は病院にかかる必要があるらしい。骨折みたいに骨がくっつきましたよ。とか、インフルエンザみたいにウイルスが死滅しましたよ。とか、目に見えない心の傷はどこを境目に完治と言うのだろうか。

ふとした瞬間に名前を呼びたくなるのは、元彼の方だった

例えば、元彼とよく行ったカフェに1年ぶりに訪れたとする。その時「このカフェ、元彼とよく行ったな」と、2人で過ごした時間を思い出したとする。その時、楽しかったな。と思う人もいれば、少し古傷が痛む人もいれば、心がはち切れそうなぐらい苦しくなる人もいるだろう。後者はさておき、痛みが少しだけなら失恋から立ち直っているのか、それとも思い出す時点でまだ立ち直っていないのか。判断基準もあやふやな上に、誰もその基準を視覚化して捉えることができないのが心の傷の厄介なところだ。

2年ほど前に、彼氏と別れた。大好きな彼だった。生まれて初めて自分より大切な人が出来たし、決して大袈裟な話ではなく初めて人を愛するという感覚を知った。彼さえいればそれでいいと思えるぐらい自慢の彼氏で、その自慢を隠すことなく友人にしたおかげで、周囲にも認知された仲良しカップルだった。もちろん喧嘩やすれ違いもあったが、大抵は思い出すだけで幸せな気持ちになってしまうような幸せな時間だった。そんな仲良しカップルも残念ながら終わりを迎え、彼は新たなパートナーと違う人生を歩んでいる。

方や私は私で、新たなパートナーを迎え幸せな人生を……と言いたいところだが、実際は違う。いや、違うとも言い切れないなんとも複雑な心境で日々を過ごしている。事実として、別れてた数ヶ月後には新しい彼氏が出来た。沢山の出会いの末選んだ、誠実な彼氏だった。毎日のように愛の言葉をくれたし、過保護過ぎるほどに私の心配をしてくれた。彼の持つ仕事以外の時間と情熱を全て私に注ぎ込んでくれていたし、実際それを自信を持って言葉に出せるほどに感じていた。彼の溢れんばかりの愛情に満足していた。それでも、1人になった時、辛いことがあった時、ふとした瞬間に名前を呼びたくなるのは元彼の方で、申し訳なくなった私は新しい彼に別れを告げた。そんな私に友人達も「もう少し時間が必要なんだね」優しい言葉をかけた。

元彼より大きな心。なのに思い出すのは、2年も前に別れた元彼だった

更に時間は経ち、なんとなく元彼の存在も自分の中で小さくなった気がした私に新たな出会いがあった。次の彼は、愛情を言葉や形にして出すタイプではなかったが、私自身の1番辛い時に寄り添い、ダメな部分を全て受け入れてくれた。元彼よりも私の黒い部分を知っているし、元彼よりも大きな心を持った人だった。それでもひとりぼっちの夜、思い出すのは2年も前に別れた元彼のことだった。

新幹線の駅、観光名所、テーマパーク。元彼以外とだって一緒に行った。今の彼氏とだって一緒に行った。それでも行く度に思い出すのは、元彼との思い出、そして2人の笑い声。普段の生活で思い出すことはないけれど、ふとした瞬間に元彼との思い出が急激に大きくなり私の心を支配する。その度に、もう戻れないのだと思い出しては私は猛烈なやるせなさに襲われ、泣きたくなる。

新しい彼氏が出来たって、2年もの月日が経ったって、元彼との思い出がひょっこり現れては全ての感情を消し去る程の大きな感情になり、私を支配するのだ。もうこれは一種の発作のような感覚だ。

耐えきれずに叫んで、涙を流しては、心の波が鎮まるのを待つ

元彼のことを好きかと聞かれればそうではないし、復縁したいとも思わない。新しいパートナーと幸せな人生を送って欲しいと思うし、これは決して嘘ではない。そして、私は私で新しいパートナーと楽しい時間を日々過ごしている。これも事実だ。それでも元彼との思い出は私を苦しくさせる不思議な力を持っていて、幸せの絶頂まで導いた後、谷底に落とし込まれるような感情を、突如芽生えさせるのだ。

この話を友達にすると「もう2年も経つんだから」「引きずりすぎだよ」と言うけれど、引きずりたくて引きずっているわけではない。ご飯を食べたら眠くなるように、嬉しい時笑顔になるように、その感情はごく自然な形で私の中に現れるのだ。

私はたまたま30%に入れなかったのか、はたまた次の彼氏と付き合えている時点で失恋から立ち直ったとするのか。世の中の基準での判断ではどこに位置するのだろうか。立ち直ったグループに入ったとしても、立ち直れていないグループに入ったとしても、まだ私は時折元彼の笑顔や幸せすぎる瞬間を思い出しては、苦しくなる。そして耐えきれなくなっては叫んで、涙を流しては、心の波が鎮まるのをじっと待つ。私の中で元彼の存在が消化される日が来るまでは。