「〇〇ちゃん、可愛いね。」

 人生で初めてできた彼氏に言われた。男兄弟で育ち、女子校時代友人からよく「イケメンだね」と言われてきたわたしにとって、‘‘可愛い‘’は1番似合わない言葉だった。

女で生まれてきたからって、なんで可愛いを目指さなきゃいけないの

昔から外で汗をかいて運動するのが好きだった。高校時代はサッカーをやっていたため、顔は日焼けをして1年中真っ黒だった。いわゆるthe体育会系女子。「〇〇って本当に男勝りでカッコいいよね。」それでもわたしは、カッコいいと言われることが嬉しかった。それと同時にクラスで可愛く髪の毛を巻いていたり、制服もスカートを短く折って可愛く着こなしている子達をどこか冷めた目で見ていた。「あんなに可愛いに取り憑かれて馬鹿みたい」そういう思いさえ芽生えた。わたしは可愛さに特に興味がなかった。

 大学も女子大で男の人の目を気にすることが特に無かった。しかし周りが化粧をし始めたので、その波に乗り遅れないように一応自分も化粧品を買った。でも実際化粧をしてみると、なんだかめんどくさく、何より化粧をしている自分が女の子っぽくて恥ずかしくなってきて、結局すっぴんで毎日大学に行っていた。
 女で生まれてきたからって、なんで女の子っぽく、可愛いを目指さなきゃいけないんだ。そう疑問を感じていた。大丈夫、わたしはこのままでいこう、と。

私も可愛いと言われて喜ぶ女の子だった

 そんな中、自分を180°変える最大の出来事があった。大学2年生の時、地元の成人式に参加したのだ。同窓会で懐かしい面々と昔話に花を咲かせる中、昔片想いをしていた人と再会した。後ろ姿ですぐ、あぁ、あの人だって分かった。
久々にあったその人は、身長も伸び、声も低くて、男の人なんだということを意識した。「久しぶり!」わたしに話かけたその笑顔は昔から変わらなかった。その後もその人と話が弾み、何回か2人でご飯に行く間柄になり、とうとう付き合えることになった。

「可愛いね」

 その言葉は付き合ってすぐのデートで言われた。
「え……」。突然の言葉に私は一瞬思考が停止した。今までは可愛いは私には無縁だと思っていたからだ。可愛いの?私が?しかし、だんだんとそう言われたことに対し嬉しさが込み上げてきた。
今まで自分は可愛くないことを自覚していたため、どこか可愛いを軽蔑していたのかもしれない。しかし結局、私も可愛いと言われて喜ぶ女の子であるということを自覚した。私だって可愛いくなりたい。「カッコいい、サバサバしてて男らしくていいね」と今まで言われてきたけど、男の人と比べるとやっぱり私は女である。可愛い自分が好まれるなら、もっと女の子っぽくなりたい。

恋をすると可愛い女の子になることを求めてしまう

 それから私は毎日大学に化粧をして行くようになった。
髪の毛も巻いて、服装にも気をつけるようになっていった。その人と会う時は更に身支度に時間をかけた。

あれだけ、可愛い女の子を冷めた目で見ていたのに、結局恋をすると可愛い女の子になることを求めてしまう。こんな自分が本当に滑稽だ。人ってこんなに変わるものなのか。
そう疑問を感じながらも、今日も鏡の前で私は化粧をする。