選ぶということは失う覚悟だ。美しくて尊い、当たり前のことが私は怖くて仕方がない。
私はたくさんの人を愛している。たくさんの人に愛し愛され20年間生きてきた。心の底から大切だと思う人が、たくさんいる。
幼い頃は、大きくなったら彼氏がいて、大人になったら誰かと結婚することが「当たり前」の未来だと信じていた。結婚して自分も誰かの親になる未来が勝手に用意されているような気がしていた。
今は、愛する人を失う覚悟ができるまでは、私は本当の意味で人を愛せないし結婚もできないと考えている。

一番愛しい人がいなくなっても人生が続く、その虚しさ

私は人間関係に名前をつけることが苦手なのだと思う。人間関係の一部じゃないかと思っている。何を特別視する必要があるのだろうか。なぜこの広い世界で一人を選んで二人で生きていくと宣言することが出来るのだろうか。私は斜に構えた中学生の頃から成長していないのかもしれない。

私の母は私が中学生の時に他界してしまった。私が現在まで20年弱生きて、世界で一番愛した人だったし一番愛してくれた人だった。私の父も同じだったと思う。
「大人の男が泣く」こと「父親が泣く」ことを知ったのは母の葬儀の時だった。中学生の私にはあまりにも大きな衝撃だった。普段は強く絶対的に頼れる父親が涙で言葉を話せなくなること。「人を愛する」ことであり、その代償でもあることを知った。私もいつかこんなにも人を愛すことができるのだろうか。いつか、どちらかが先に逝くことが決まっていて、それを覚悟することが結婚である。と思ってしまった。あまりにも美しくて信じがたいほど残酷だ。

父と私がそれぞれ母を思う気持ちは多少形が違えども、それぞれ抱え切れないほどの大きな愛だった。過ごした時間が長い分、父の愛の方が私のものよりも大きかったかもしれない。
世界で一番愛しい人がいなくなっても人生が続くことに絶望した。すべて悪い夢であるかのような気がする空白の時間。ふとした瞬間にもう会えないんだった、と気が付くこと。私はもうあんなにも苦しい思いをしたくない。
私のことを愛してくれる人にはあの痛みを知らないでほしい。私の死が誰かにあの感情を与える物にしたくないし、かといって私は一番近くで最後まで相手を見送ることなんてもう耐えられない。

結婚しなければ、辛い別れもない。それでいいんだ

しかし七回忌が済んだ今、父は再婚の話があるらしい。本当に素敵なことだと思う。母はいつまでも悲しみに暮れる家族なんて望まないだろう。母の死後、悲しみをこらえて戸惑いながら苦しみながら私たちを成人まで育て挙げてくれた父は立派だ。愛する人の死を経験してもなお、人を愛せる父はやはり強い。二人が共に幸せに暮らすかもしれない日々を私は応援している。

私だけがいつまでも現実を見られない臆病者であるかのような不安に襲われる。
今まで出会った友人達のことを私は愛している。男も女も性別がどちらであっても私は
全員「愛している」。生きていてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。楽しい時間、お互いが夢に向かって走ることは何にも代えがたくて、尊くて、素敵。人生って楽しいと思えるよ、ありがとう。出会えた大好きな人々が私を支えてくれたから、母の死をも越えて強く生きている。
最期に意識を手放すその瞬間まで誰よりも一番近くにいてほしいと思う相手を決める事が恋愛・結婚であるとするなら。私の答えは「誰にもそばにいてほしくない」。
そばにいてほしくないし、誰かの最期にそばにいたくない。自分がされて嫌なことは人にしちゃいけない。誰かに選ばれたくもないし選びたくもない。愛した人々には幸せになってほしいけどそれは私じゃない誰かとであってほしい。私はもう失いたくない。選ばなければ一番でなければ内臓をえぐられるような痛みも、朝日が昇ることに絶望することもない。今の私は誰かを選ぶなんて到底出来ない。

誰にもあなたの最期を時を譲らないわよ。そう言えるまで

だけどいつかはもう一度、誰かに、世界で一番愛していると無邪気に告げてみたい。いつになるかわからない最期を考えるよりも、一緒にいられる今を大切にしたいと思える日が来たら良い。最期なんてどうでも良くなるくらい大切な人と生きていけるならそれだけで十分だ。最期を受け入れる覚悟ができたら二人で暮らそう。
お互いの最期は自分だけのものだから誰にもあげないよ、と世界に叫びたくなったら結婚をしよう。
そう思う日が来なくても人生は美しい。私は息絶えるまで出会えた人たちを愛し続ける。恋じゃない、無限の愛のやり取り。選ばないからこそ制限されることのない色とりどりの美しい愛。良い子は天国に行けるけど、悪い子はどこへでも行けると何かで読んだ。選ばなければ失わない。

今の私は選ぶ事が怖くて仕方がない。今は結婚なんてしたくない。だけど3年後の私は気変わるかもしれない。失う覚悟を持つかどうか。愛を知っている私は結局幸せになるだろう。あの世に持っていく愛の種類が変わるだけ。何も怖くない。流れに任せて心の向くままに素直に生きていこうと思う。