「お母さんたちの結婚生活を見ていると結婚したいと思えない」
言ってしまたら最後。0.1秒前ですら時間は巻き返せない。
あなたは私の前では普段全く見せない涙を流した。

母の奥底の気持ちを汲み取ることもできなかった

それは母との約2年ぶりの再会だった。約9時間のフライトを経て、海外で生活するワタシに母はわざわざ会いに来てくれた。
1週間の滞在。色々な観光地を周り、美味しいものを一緒に食べ、2年間のブランクを急いで埋めるように濃い時間を過ごした。

しかし、母の滞在最終日、取り返しのつかない言葉を言ってしまった。
コトの発端は母が投げかけてきた一言だった。

「海外にずっといるようだと、結婚なんてできないんじゃないの」

当時のワタシは24歳。まだまだ結婚も考えなければ、この先も海外にいたいと考えていた。そもそも海外にいるから、結婚が難しいなんて言う論理展開もおかしすぎる。勿論、振り返ってみると、母の言葉の意図はわかる。あの嫌味に聞こえる言葉には、「寂しいから帰ってきてほしい」という純粋な寂しさが秘められていたことを。ただ、当時のワタシは、母の奥底の気持ちを汲み取ることもできない、いや、しようとないほどの24歳のガキだった。

面倒な話がきたよと思いながら、正直に答える。
「んー。日本に帰るかもわからない。結婚なんてもっとわからない」
どうしてもっと柔らかく、言葉を選んで返事をしてあげなかったのだろう。
そうだよね、寂しいよね、でもね、まだわからないの、やりたいことがあるの。そう言えばよかったのに。

つっけんどんな返事をしたワタシに対して、母の口は止まらなかった。
「日本にいた方が、お母さんが子育てを手伝える」
「結婚した方が絶対にいい」
「子供も早い方がいい」

素直に聞いていて辛かった。

喧嘩ばかりする両親 結婚が良いものに見えなかった

そもそもワタシの持つ夫婦のイメージが両親であり、結婚というものに良いイメージがなかった。ただただ、2人が喧嘩ばかりする姿が瞼の裏に焼き付いている。母が苦しんでいる姿しか見てこなかった。そんな生活から逃れることが、単身海外に出た理由の1つでもあった。

そんな母から遠回しに「日本に帰ってきて、結婚相手を探せ。」と言われているかのように感じてしまい、頭に血が上った。
いつもなら冷静に右から左に話を流せるのに、この時のワタシは言うべきでない言葉を言ってしまった。

「どうしてあんな夫婦像しか子どもに見せていないのに、結婚しろなんて言えるのか」
「お母さんたちの結婚生活を見ていると結婚したいと思えない」

言ってしまったら最後。

母の顔は、グサッとナイフでも刺されたかのように一瞬苦しそうになり、気づいたら涙を流していた。後にも先にも初めて見た涙だった。

――――やってしまった。

当時のワタシは、母の寂しさ・辛さを理解しようとしてあげてなかった。

27歳になった今のワタシは、何故母が結婚や帰国について投げかけたか理解できる。

唯一の娘が海外に行ってしまい、いつ日本に帰ってくるかもわからない。相変らず、仲の悪い旦那と2人での生活。喧嘩は絶えることを知らない。日常が辛い、寂しい。そんな中、2年ぶりに娘と2人で過ごせる楽しい時間。改めて一緒にいたいと強く思う。日本に戻ってきてほしい、孫がいれば仲良く過ごせる家族も増える。そんな感情から自然と「早く結婚してほしい、日本に帰ってきてほしい」という発言に繋がるのは、至って自然な感情だと思う。

母もワタシと同じ人間であり、感情がある。親になったからといって、不死身で強い人間になるというわけではない。当時のワタシは、母の寂しさ・辛さを理解しようとしてあげてなかった。未熟だった。

正直、結婚はまだまだ考えられない。
他にやりたいことが沢山ある。
ただ、今度またその話が出た時は、自分の思っていることを「言葉を選んで」話していきたい。

お母さん、あの時は言い過ぎました。ごめんなさい。