街中を歩いてると目に入ってくる、純白のドレス。
それと一緒に、さも幸せ満開と謳わんばかりの笑顔をまとった花嫁の写真。作られた幸せ像に辟易しながら、なるべく目を合わせないように足早で過ぎるのが私の習慣だ。

結婚?そんなに幸せなこと?うける。
そんな言葉を心の中でリピートさせて、我を保つ。

学生時代、結婚式場でバイトをしていたことがあった。
取り繕った笑顔の下で、「純白のウエディングドレスなんて偽善すぎて笑える。処女でもないくせに!」なんて思いながら、真実の愛って何だろうって哲学をしていた。

一種の通過儀礼として、正装をしてお世話になった人たちに感謝の意を示す場。成長を実感できる場。そんな機会なのだろうが、どうも私には踏み込みにくい事案だ。

関わりにくい教師の父 病床で初めて知った母への愛

私の生まれ育った家族は、ごくごく普通の三世代。父は教師、母は看護師。父方の祖父母と、私の上に兄と姉。とくに困ることなく、大事に育ててもらえたと思う。
ただ、心の中はずっと、家族が嫌だ、ここから逃げ出したい、そんな気持ちがはびこっていた。私の結婚に対する疑念はここから始まっている。

私の父は、すごく真面目だけど、気性が変わりやすく、関わりにくい人だった。
父に怒られないように、気を遣って過ごす日々。怒られたら、情けなさとふがいなさと、自分を許せない気持ちでいっぱいになる。そして、なんでお母さんはこんな人と結婚したんだ?という問いが湧き出てくる。

ただ、そんな父とも別れの時が来た。私が大学2年生の秋、肺がんで他界した。

私の当たり前が当たり前ではなくなった瞬間だった。何も考えずに、ただ遊んで過ごす周りの大学生への苛立ちも覚えた。

だけど、死に行く父の姿は、これまでの、すごく怖くて、正直あまり関わりたくないと思っていた父のイメージを変えてくれた。

亡くなる数ヶ月前。随分と痩せて、元気もなくなっていたけど、母とお見舞いに行った時に発した一言が衝撃的だった。

「お母さんは、precious partner(最愛の人)だ」

あんなに怒りっぽくて、本当の気持ちを素直に言わないあの人が、こんな言葉を言うなんて。
隣の母もすごく嬉しそう。今も事あるごとに、その時のことを話している。
最期にそんなやり取りをする両親の姿を見て、二人はお互いにとって大切な存在で、二人の結婚には意味があったのだと、初めて納得できた。

結婚はいいものだ。でも、一人の人間として生きていく力を

ただ、そんな父もついに命が尽きた。
父がいなくなってから、母は自分の居場所をどこに置くのか、苦しそうにしていた。もともと、自立して暮らせるだけの収入のある母。嫁ぎ先を出て、新たな人生を始めるためにアパートを借りて暮らし始めていた。

そんな姿を見ていると、私は強く思うのだ。
「結婚は、たしかに良いことかもしれない。だけどその前に、一人の人間として生きていく力を身に付けないと」
それからというもの、私自身にも何度か恋愛をするチャンスがやって来た。

とは言え、男性の経済力に頼るだけではいつか自滅する、まず自分自身のやりたい仕事で生活していく力を持とう、という思考が真っ先に思い浮かぶ。誰かと一緒になる未来を描くのが怖くなってしまうのだ。

私の求める理想の関係は、お互いが一人の人間として、尊敬しながら大切にし合う関係性。
だけど、男性から求められるのは「男性にとっての良い女であること」という意識。

ちょっと太っただけで小言を言われ、毛の処理をさぼると軽蔑される。
何?私も人間なんですけど?なんで女だけがそんなに頑張らないといけないの?

まあ、それでもちょっとは好きな気持ちはあるから、この人のためにできる努力はしなくちゃな、と思って頑張ると、かえって本来の自分がどこかに行ってしまって、とても息がしづらくなる。
そこから、性別役割分業とか女性の社会進出とか、いろいろ考えたり記事を読んだりし始めると、男の機嫌をとるために本当の私を隠す必要もないだろうと我に返る。
認めてもらおうとする行為自体が馬鹿馬鹿しくなってくるのだ。

おかげで、恋愛のチャンスも長くは続かず、なんとなく一人を満喫する時間を過ごしている。

「君はprecious partnerだ」と言ってくれる人は? 答えは私にある

最近は、SNSを開くと、連絡はとってないけど、急に幸せアピールをする同級生や知り合いの結婚報告ラッシュが続く。本当は、おめでとうの一言くらい言えたほうがいいのだろうけど、本当にそれが「おめでとう」なのか。私にはよくわからない。終わりを見てしまったからこそ、結婚って、試練の始まりなのにね、なんて思ってしまうから。

結婚適齢期とされる年齢になり、嫌でも意識せざるを得ない環境になりつつある。
本当は、人生の通過儀礼として、堂々と楽しめたらいいのに、偏屈に考えなくてもいいのに。お母さんを安心させたいとも思うし。
あの写真の花嫁さんのように、キラキラしていたいのに。
そう心の奥でつぶやく小さい私がいる。

「君はprecious partnerだよ」と、ありのままの私と人生を歩んでくれる人って本当にいるのかな?
だけど、私は本当の答えを知っている気がする。結婚とか、誰かを頼る前に、まず自分がしないといけないこと。できるようにならないといけないこと。

心の奥にいる、小さな私のことを、私自身が愛してあげることだ。
目の前にやってくるチャンス、幸せを素直に喜べる私になることで、明るい未来の扉が開くのだ。自分を愛せないのに、他人を愛せるわけがないから。