「肌がでこぼこで気持ち悪い」。高校のとき、廊下でいきなり知らない男の子に言われたひとことだ。

周囲にどう見られているのか。目を逸らしていた事実を突きつけられた

野球部の集団の一人に顔をじっと見られて、笑いながら大声で言われた。一瞬何が起きたかわからなかったが、恥ずかしさと悔しさと悲しさと色々な感情が溢れ出してきて、しばらくその場から動けなかった。

私は高校生の頃、ひどいニキビで悩まされていたのだ。その言葉で私の人生は変わった。その時から私は、自分の肌に対して強いコンプレックスを持つようになった。同じものを食べて、同じ生活している兄弟はみんな肌が綺麗だった。何となく、自分の肌のニキビは気になっていた。でも、朝から夜まで勉強漬け、土日は部活で潰れるという忙しい毎日で、自分の外見に気を遣う時間はあまりなかった。だから、その時初めて自分が周囲からどのように見られているのか、目を逸らしていた事実を突きつけられた。

マスク無しで外出できず。笑い声が気になり、イヤホンも必須に

そこから地獄が始まった。マスク無しでは外に出られなくなくなった。すれ違う人みんなが、自分の肌を笑っているのではと気になって、顔を隠すためにマスクをしていた。それでもマスクを外さなくてはならない時はトイレに駆け込み、肌色の塗り薬を塗って必死にニキビを隠した。俯きがちで話すようになり、だんだんクラスメイトとも話さなくなった。休み時間もお手洗い以外は席を立たず、教科書を読んでいるふりをしていた。今も高校時代の友人は一人もいない。

そのマスク生活は大学に進学してからも続いた。東京の大学に進学した私は、マスクとイヤホンが手放せなくなった。後ろで歩いている人達の笑い声が自分を笑っているのではないかと不安になった。もちろん人前に立って発表など論外だ。でも大学生になってメイクを覚え、メイクをすれば少しずつマスクを外せるようにもなった。ただ、肌の話や顔の話になると自分の肌を馬鹿にされるのではないかと怖くなって口数が減り、トイレに逃げた。好きな人ができても、自信が持てずに、俯き加減で話した。メイクを落とした後に自分の顔を鏡で見ては、「どうして自分だけ」「いつになったら、みんなのようにきれいな肌になれるだろう」という不安でいっぱいだった。

一人暮らしで変わった。人生初で初めて肌を褒められた。嬉しかった

それが変わり始めたのが、就職を機に一人暮らしを始めた頃だ。一人暮らしでは自分の生活を全て自分でコントロールできる。一人暮らしをして、自分で洗顔も化粧水も買うようになり、化粧品を1から見直したい。たくさん調べて、ドラックストアで購入できる安いものから、1年目のお給料では少し厳しいものまで試した。野菜をいっぱい食べて、甘いお菓子は我慢した。代わりにヨーグルトかフルーツを食べるようにした。効果のありそうな情報を手に入れては、藁にもすがる思いで全部試した。何とかしたかった。

その生活を始めて一年ほどたったある日、同期の女の子に「なんか肌キラキラしてる。綺麗だね」と言われた。人生初で初めて肌を褒められた。嬉しかった。
いまだにマスクとイヤホン無しで外へは出られない。でも、前よりは自信を持って人前でもマスクを外せるようになった。人生の中で、今日の私が一番かわいいと思う。昨日より今日の私の方がかわいい。今日より明日のほうがきっとかわいい。

「肌がでこぼこで気持ち悪い」と私に言ったあの男の子は、きっとそのことを覚えていない。けれど、言われた方は一生忘れられない。散々嫌な思いもして、自分の事が嫌いだった。でもその言葉があったおかげで、私は現実と向き合う事ができた。そして今、毎日自分の中でかわいいを更新できている。長い年月がかかったが、今ならあの子にやっと言える。あの時教えてくれてありがとう。