すごくいい世の中になったと思う。とは言っても私は女性の地位がある程度築かれた時代しか知らない。それでも、女性だからと言って出世が阻まれるわけでもなければ、発言権を奪われる訳ではない。昔ながらのしきたりが残り女性の権利がないに等しい国も存在するが、現在の日本においては女性の権利というものは確立されている。
夫に従い、発言は慎み、そんな時代もあったことを考えると世界は着実に女性に優しいものへと変わっている。

パートナーとの甘い時間。1年かけ築いた関係が壊れるのは一瞬だった

私にはパートナーがいた。
彼氏とも父親とも取れない二回り以上歳の離れたアメリカ人男性である。
フラッと入ったバーで知り合い、そこで意気投合。
日本語の話せない彼は、意思疎通がある程度取れる私を気に入ったようで、その日のうちに連絡先を交換した。
忙しい彼は、まとまった時間を見つけては連絡をよこし、私を食事に誘った。
会うたびに渡される花束と日本人相手では考えられないようなレディーファーストっぷりに私自身も悪い気はせず、当時彼氏を作る気がなかったこともありカップルのような会話を楽しむデート相手という感覚で食事を楽しんでいた。
彼も彼で年齢的にも日々の忙しさ的にも特定のパートナーを作ることに戸惑いがあったようで、たまに会って楽しく食事をする私たちの関係がちょうど良かったようだ。
知り合って1年ほど経ったある日、今日は時間があるから家に来ないかと連絡をよこした。
1年という歳月は恐ろしいもので、彼を完全に信用し切っていた私は二つ返事で彼の家へ向かい、デリバリーで頼んだ食事を食べ、用意されたワインを飲む。
歳とはいえ彼も男。
お酒も入り、なんとなくいいムードになりベッドの中へ。
ここまではよかった。私の中では許容範囲の中だった。ところが行為の最中、彼は言ったのだ。
「このまま挿れてもいい?」
答えはもちろん「NO」だ。
もはやそれ以外の言葉なんて見つかるはずもない。
ところが彼は折れなかった。
「僕、パイプカットしてるから」
いわゆる精子除去手術を終えているから、安心して中出しが出来るとのこと。
そんなこと、こちらからすれば知ったこっちゃない。
もし彼がそう言っているだけだったら?もしその避妊率が99.9999%で運悪くそこに入れなかったら?
そんなことを考えると急に冷静になり、もう一度「NO」の意思を見せた。
ところが彼は聞かなかった。
レイプともいえる無理やりさで体を掴み、嫌がる私を押さえながらことを終えた。

怯える私、呑気な彼。なぜこんなにも気持ちが違うのだろう

震えが止まらなかった。ずっと優しいと思っていた彼が欲に従い続けるような人だったこと。そして妊娠してしまうかもしれないという事実。
言葉も出ない私は逃げるようにその場を去り、ネットで買えるアフターピルを注文した。

病院にはいけなかった。
そんな男に心を許した自分が馬鹿だと言われる気がしたから。友達にも話せなかった。彼を責めるのか、はたまた私を責めるのか。
薬が来るまでは一分一秒がとても長く感じ、この待っている間に万が一のことがあれば。そんなことを考えるだけで気が気ではなかった。
そんな私の心配をよそに彼は、「大したことじゃないから大丈夫だよ、ゆっくり寝てね」と、私の気持ちを逆撫でるかのようなメッセージをよこした。
"結局女は弱い"
こんな場面でも、妊娠して人生を大きく変えられるのは女だ。もし逆に私が、嫌がる彼を無視して意図的に避妊をせずセックスに臨んだとしても、全てが降り掛かるのは私だ。
結局、生物学的に女は弱いのだ。

社会で認められても、力では絶対に敵わない。責任を負うのは女だ

翌日アフターピルを飲み、副作用なのかフラフラする頭と違和感のするお腹と共に1日を過ごし、ようやく体調が落ち着いた頃には消退出血と呼ばれる不正出血を起こし、次の生理が来るまでは、ちゃんとやってくるだろうかという不安と共にひと月を過ごした。
もし、妊娠したら?1人で黙って中絶する?
それとも人殺しにならない為に世間の目を気にしながら産んでしまう?
不安から予期せぬことばかりを想像してしまい、他のことが手につくような心持ちではなかった。
その間も彼からは「元気?」「今日は何してるの?」と、度々メッセージが送られてきたが、こんなに恐怖と共に過ごしている私に反して、彼は何も考えずのうのうと過ごしているのだと思うと、腹立たしいを通り越して憎らしい気持ちでいっぱいだった。

そんな彼も会社やSNSでは「女性も共に働ける会社づくりを」などと発信しているのだ。
社会で認められるようになったって、発言の自由が認められたって、ボスになったって、
力では絶対に敵わないし、全ての責任を負うのは女だ。
結局のところ、女の方が弱いのだ。