「そのままでいいよ」
以前付き合っていたひとが、別れる直前に私に丁寧に渡してきた言葉。

振り返れば、小学生の時から、コンプレックスだらけだった。
ミニスカートなんて履けない脚。太り易い体質。丸い輪郭。高くは無い鼻筋。奥二重。歯並び。目と眉の距離が近くないこと。
挙げたらキリがなかった。

高校に入って必死にダイエットをした。
落とした15㎏という数字、払い落とされた羞恥心。
"これでやっと普通になれた"
そう思っていた。

大学に入ってからはダイエットに比例し自然とメイクやファッションへの興味も加速した。
ああなりたい、こうなりたい。
あれが欲しい、これも欲しい。
自分が音を立てて変化していく度に"可愛い"と言ってもらう事が増えていった。
嬉しいその反面、もっと可愛い子なんてしぬほどいるよって。人はやはり外見が重要度を占めるのかと皮肉にも感じていた。

バイトで出会ったのは、良く手紙をくれる人

大学生になり、始めたバイトで出会った人がいた。
痩身で、骨の形が綺麗で、スタイルが良かった。肌も白くて、どこか憂いげで。一重でそれがまたアンニュイな雰囲気を漂わせていて。余分な線が無い人だった。
そして、とてもとても優しい人だった。

付き合ってもないくせに、家に出入りして。
気付いたら付き合ってた。

良く、小さなメモ書きやお手紙をくれた。
お米セットしたから料理するなら使ってねとか。洗濯物取り込んでほしいなとか。
いや、私家政婦じゃないんですけどとか思いつつ、惚れた弱みが顔を出す。

暖房使っていいとか。寒いだろうからパーカー着ていいとか。
すぐ帰るから良い子にしてるんだよって。
ごはんおいしかったよって、いつもありがと。とか。

浮気した時も。
反省文、男の子なのに可愛らしい字で。
気持ちが心底分かるような。分かりたくなるような。
出会ってから仲良くなるまでの過程、私といるととても和むし穏やかで幸せな気持ちになると。
どんどんこれからも好きになりたいし、好きになってもらいたいと。
ごめんね、がたくさん。死ぬほどむかつくのに、全てを許してしまった。そう、あれもきっと、惚れた弱みだった。

別れる直前の手紙に書かれた、ひとこと

私の誕生日も。
来年もお祝いさせてねって。悩んでプレゼント買ってくれた事、全部含めて凄く好きだと、これからも沢山よろしくねって。大好きだよって。

最初のクリスマスの絵葉書。
手紙にはびっしり書かれていて。
大切な日には、お手紙に気持ちをしたためるって決めてる、と。

お返しのホワイトデー。
くれたチョコと紅茶に付いた手紙。
今日も明日も来年も大好き、と書かれたその手紙。

別れる直前にくれた手紙。
ルーズリーフ1枚にびっしり書かれた感情。
人と比べては自分が嫌いになりそうな私に、「そのままでいい」と言ってくれた。「そのままでとても素敵だよ」と。
全部愛情をもって受け入れるからって。
書いてた時、どんな気持ちだったのかな。

1年記念の時はお花をくれた。
来年は一緒に過ごそうねって。
2度目のクリスマスも手紙があった。
2回目だね、来年も一緒に過ごせるといいねって。
私が可愛いって喜びそうなものを用意したよって。来年は私の事もっと好きになるよって。

そして、思い出した。
私のメイクの無い薄い顔。ぼさぼさの頭。食べ過ぎで太った時。寝起きの不細工な顔。
二重の為のプチ整形後の腫れた瞼。だらしない癖。メイク後の顔。ダイエットがうまくいって痩せた時。美容院行く前と行った後。

家族の次くらいには、私を好きでいてくれて、見ていてくれていたであろう彼は、どんな時も"可愛い"も"そのままでいい"も伝えてくれた。
好きの贔屓目もあっただろうけど、そこに嘘はなかった。

可愛くても可愛くなくても、そのままの私を全肯定してくれていた。

彼のおかげで脆くもなり強くもなれた

優しくて、心が素直だっただけだったあの人。
わるいのは私で。
「可愛い」も「そのままでいい」も、受け入れられなかったのも私だった。

そんな彼も、別れて何年も経ち、今は素敵な彼女がいるらしい。
綺麗で、彼と良くお似合いだと思う。
Instagramの投稿を埋め尽くす程に好きなんだろうと、愛が伝わってくる。

好きという感情は一切無い。
当たり前だけど、これだけは言い切れる。
思い出すのは、きっと彼と過ごした時間が余りにも優しかったから。
モノトーンなわたしに、カラフルな感情を沢山くれた。
彼のおかげで脆くもなり強くもなれた。

コンプレックスは相変わらず尽きないけれど、頑張る事を私はやめないし、自分をもっと好きになる努力も続ける。
私の全てを肯定して受け入れてくれた人の為に。
これから現れるかもしれない、そう言ってくれる人の為に。

そのままでいいなんて、可愛いを上回る最上級の甘やかしの言葉なんだから、どう転んだって肯定してくれるんだろうから、どうせなら自分を好きでいれるよう素敵で在りたい。

彼に感謝は尽きない。悲しいことも幸せなことも、きちんとあったバランスの良い素敵な恋だったように思う。
お互いにもう今後、会うことも無いかもしれないけど、彼が言ってくれたあの優しいひとこと。
「そのままでいいよ」
今日もお守りのように、心の中で握りしめている。