社会人1年目の秋に出来た彼氏は大学時代から大好きだった先輩だった。3年くらい付き合って結婚できたら幸せだなぁなんて妄想していた。
その彼がプロポーズしてくれたのは社会人2年目の終わり。思いがけず早いタイミングでびっくりしたけれど、とても嬉しかった。
24歳で婚約するなんて思ってもみなかったのに、結婚式を挙げたい会場と、欲しい指輪は既に決まっていた。
結婚を意識する前からインスタグラムの広告はウェディングドレスばかりで、結婚式に対する憧れだけがずっと先走っていたのだ。
「可愛いお嫁さん」になりたくて、追い詰められて布団の中で泣いた
結婚式の花嫁さんに憧れて結婚した私は、夫婦になるのがどういうことなのかは全然想像ができていなくて、夫婦は恋人の延長線だろうと思っていた。
恋人だった時の私は多分可愛い彼女だった。
手料理が食べたいと言われれば実家で練習をし、出張に行くと言われればお手紙付きの差し入れを用意した。
私はそのまま可愛いお嫁さんになろうとした。
毎日のお弁当にはメッセージ付きのお菓子を添え、夜ご飯を作り終えたら洗濯物を回して夫の帰りを待った。
どうしても疲れてご飯を作れない日は夫に必ず断りを入れた。ご飯を作れない自分は家事が出来ない駄目な妻だと思った。夫も忙しいなりに家事をしてくれたし、私の家事の出来に対して何も言われたことはないのに、家事が出来なくて、ご飯が美味しくなくて愛想を尽かされたらどうしようと布団の中で静かに泣いた。
理想のお嫁さん像から遠い自分に気付くたびに、どんどん追い詰められていった。
仲の良い友達に既婚者はまだいなくて、羨望を集めた分、結婚して苦労している自分の姿は絶対に見せたくなかった。
一緒にイルミネーションを見にいった写真、夫がフレンチトーストを作ってくれた写真、インスタグラムには幸せ新婚夫婦の象徴のような写真ばかりを載せた。
幸せそうでいいね、なんて言われた夜には、そんなことないなんて言えなくて、赤の他人だった人と家族になるには幼すぎたなぁと一晩中泣いた。
「家事やめなよ」夫に悲しい顔をさせたかったわけじゃないのに
ある日、冷凍庫に物がいっぱいで閉まらないよ、と夫が言った。
夫の口調は冗談のようだったのに、私には家事が出来てないに聞こえてしまった。
「1人でやってるんだからほっといてよ」
言ってはいけないことを言った。
半日口を聞かなかった後に彼は厳しい口調でこう言った。
「イライラするなら家事全部やめなよ。完璧な奥さんなんて求めてないのに。家政婦さんと結婚したわけじゃないのに。2人で足並み揃えてやっていくんじゃないの」
強い口調と裏腹に、どこか悲しそうだった。
女性は自分の優しさを押し付けてしまうと言うけれど、私は自分のなりたい可愛いお嫁さんを夫に押し付けていただけだった。
気が付けば、大好きな夫と過ごす幸せな新居が、嫌われたらどうしようと恐怖する息苦しい場所になっていた。
失敗作もインスタに載せるし、「家事したくない」と言えるようになった
彼の好きだった長い髪を切った。
追い求めていた幻影から解放された気がした。
今では気分が乗らなければご飯を買って帰るし、失敗作のご飯の写真をインスタグラムに載せたりもする。
時には友達に愚痴を聞いてもらうし、今日は家事したくないとも言える。
会うたびに抱き締め合うのが恋人だとしたら、手を繋いで同じ歩幅で歩き続けるのが夫婦なのかもしれない。どちらかが無理をしたら途中で疲れてしまう。
そして時々抱き締め合い、腕の中で眠ってしまった寝顔を見て愛おしいと思う。この人と、この人にそっくりなやんちゃな男の子やかわいい女の子がいたりしたら幸せだろうなぁと想像する。
一緒の名字になってから、1年以上もかかってしまったけれど、夫婦になれたと感じる今、毎日がとても楽しい。