「3、2、1、0…ゲームセット。集合!」体育館に笛の音が鳴り響いた。やっと終わった。今日の部活も疲れたなぁ、早く帰りたい。そんなことを思いながら、私は片付けに向かった。

私の居場所ここだっけ、そこで流れたあのBGM

県内一の進学校に入学して、私は最初に放送部に入部した。しかし、想像した雰囲気との違いに戸惑い、大好きなスポーツがしたくなった。そして転部し、バスケ部の活動との両立に励む毎日。入学して4ヶ月、既に私は疲弊していた。県外の有名大学に進学したい。スタメンに入りたい。それでもJKを満喫したい。でも夢を叶えるためには…。複雑な感情が交差していた。ここ何日か、部活でシュートが決められていない。スポーツ推薦で入学した同学年の仲間がスタメンに選ばれて、私はいつもベンチにいる。夏の暑さで蒸した体育館で、私は選手に団扇を仰いでいるだけ。集合がかかった今も、先輩の声が耳に入っては抜けていく。

あれ、私、何のためにここに入ったんだっけ。気づくと集合は終わっていて、私を待つ友達が不思議そうにこちらを見ていた。「只今の時刻は、18時30分になりました。下校の時間です。生徒の皆さんは…」下校放送が流れ始めている。私はそれを聞いて、涙が流れた。自分でも理解できないくらい、溢れ出した。放送部のアナウンスと共に流れていたのは、Mr.ChildrenのHANABI。もう一回と繰り返すその歌詞のフレーズが私を変えたひとことである。これまで、HANABIを良い歌だなと思うことはあったが、勇気づけられたり悲しい気持ちになったり、特別な感情を抱いたことはなかった。

もう一度あの歌詞に奮い立たされた夢を追って

私は、小学生の頃からアナウンサーになるという夢があった。アナウンサーになるために勉強してきた。バスケをしたい気持ちと、高校のうちから放送部に入って全国で通用する技術を身につけたい気持ちがいつも葛藤していたのだ。
放送部の先輩が話す声が体育館に響き渡って、はっとした。私はアナウンサーになるために、ここにきた。私が本当にしたいことは、ここではできない。私はもう一回、放送に向き合った。バスケに未練がなかった訳ではないけれど。そして高校時代、ついにアナウンスの大会で全国入賞を果たすことができた。

それから5年が経って、私は今ついに就職活動を始めている。今でもHANABIを聞くと、母校の体育館が鮮明に思い出される。真夏で、さらに雨が降っていて、じめじめした体育館の中で流れたHANABIは、決していい音でもなかった。放送室から、体育館のスピーカーまで流れて、高い天井を反響して私の耳に届いた音だった。何回間違ったっていい。何回方向転換したっていいんだ。

自分が好きな、自分が目指している自分に出会えた。私がもしアナウンサーになるために時間がかかったとしても、もう一回を繰り返すあの歌を心に留めて絶対に諦めないだろう。一瞬だけ光るHANABIのような夢でも、決して見逃さないために。