誰ともつるまないと決めた私の前の席だった彼女

私には、基本的に謝りたいことなんてない。
あたりまえだけど、謝らなければいけないようなことは、しないようにしているから。
むしろ、こちらが謝ってほしいことばかりだ。

でもそんな私にも、1つだけ謝りたいことがある。会って謝りたくて、でもそれが叶わない人がいる。

中2の冬。
人間関係に疲れた私は、もう誰ともつるまないと決めていた。
話題についていくために、好きでもないアイドルについて勉強する子の、必死な顔。
本当は誰かを無視なんてしたくないけれど、自分を守るためにそうせざるを得ない子の、困惑に満ちた顔。
積極的に誰かを傷つけることで、優越感に浸る子の、醜い笑顔。
私はそのどれでもない立場からその顔たちを見ていたけれど、そのすべてが哀しくて、死ぬほど嫌いで。
だから私は、1人でいようと決めたのだった。

中3の春。
空虚な気持ちで席についた始業式の日、遅刻してきた彼女が私の前の席へ着いた。
私の方に振り向いて「お、蟻さんか。よかった」と笑った彼女に、ほんの少し救われてしまった。

前後の席同士というだけの浅い関係。
あの頃の私には、それがとても心地よかった。

移動が死ぬほど嫌いだった彼女は、私の前の席でお弁当を食べていた。そして時々こちらに体を向けて、話しかけてきた。
常に1人でいる私をかわいそうに思って、そうしていたわけではない、と思う。

彼女が私に話しかけるのは、私のためじゃなくて、彼女自身の気まぐれだった。
そこが、よかった。
彼女のそういう所に、私は救われていたのだ。

だんだんと彼女に執着するようになっていった

けれど、次第に私は私の変化に気付いていた。
私は彼女に強く惹かれ、憧れ、執着し始めていたのだ。

彼女はさっぱりした性格で、誰にも執着せずあまり群れたがらない子だったのに、すごく人気がある、という不思議な子だった。
人気者の彼女にとって、私はやはりただのクラスメイトでしかなくて、その事実にいつからか深く傷つくようになった。
浅い関係を、私も望んでいたはずなのに。
それでも私は彼女ともっと深く関わりたくて、自分からも沢山話しかけたりしたけれど、空回りばかり。

当時はそんなつもりはなかったけれど、今思えば、彼女が他の子と話しているときに割って入ろうとしたり、彼女が眠そうなときに至極どうでもいい話を提供したりしてしまっていた、気がする。
音量的にはさほど迷惑ではなかったと思うけれど、彼女に気に入られたいという私の必死さが見え隠れしていて、彼女は重たく感じたかもしれない。

彼女は以前から私の成績の良さを買ってくれていて、毎日のようにLINEで勉強に関する質問をしてきてくれていたのだけれど、気付けばそれも減っていた。
ちゃんと理解していて、質問することがないだけかもしれない。そう思うようにしていたけれど、そのうち彼女は離れていった。

私は彼女に決して執着してはいけない、と気付くべきだったのだと思う。
だって彼女は誰にも執着しないさっぱりした性格で、私はそういう所に救われていたのに、それなのに私は彼女の特別になろうとした。
面倒くさがりな彼女に、「卒業後も会いたい」と思ってもらえるような、そういう特別な友達になりたくて、私は必死だった。

学校外でも会う習慣を作るために、何度も遊びに誘った。映画を観に行こう、遊園地に行こう、勉強会をしよう……。勉強会は彼女の提案だったけれど、それだけ実現しなかった。
共通の話題を作るために、私の好きな俳優や歌手について、セールスマンみたいに語ったりした。私の好きなものを、彼女にも好きになってほしかった。

でも、そのすべてが、彼女にはやっぱり重たかったのだと思う。

私は彼女のことが好きすぎて、考えもしなかった。
彼女がいつも何を感じていて、本当は誰が好きだったのか。
何も知らなかった。
もっともっと、考えればよかった。
もしまた彼女に会えたら、ごめんねって言いたい。
自分の気持ちを押し付けるのではなく、もっとあなたのことを考えればよかったね。ごめんね。

謝りたいけど、きっともう会わないだろう

彼女はまだ生きているし、連絡先も変わっていなければ持っているから、絶対会えないわけじゃない。今の世の中、会おうと思えば、会える。
でも、だからこそ、私はもう2度と彼女には会えない気がする。
今更どんな顔で会ったら良いかもわからないし、今彼女に会いたいかと聞かれても、正直よくわからない。
それに、私はもう、彼女に惹かれたあの頃の私じゃない。人間関係に疲れることはあっても、好きだと思える人たちがいる。信頼できる人たちがいる。私はもう、1人じゃない。

だから、彼女にはたぶん、もう会わない。
だからこの場を借りて、ごめんね。
そして、ありがとう。
思い入れなどないと思っていた中学時代に未練をくれた彼女を、私はきっと忘れない。