あの日彼女は泣いた。
嗚咽だけが響き渡る神社の中で私は立っていたのだ。

もう何もかもがわからなかった。
ただあの3年間が綺麗な時間だったことは確かだ。男女の濁りのない透き通るビー玉のような…
先が見えそうで見えない2人のたった3年間。
私が彼女にしてあげられたことは何かあっただろうか。

彼女がいじめられる光景を見てきた。見てるしかできなかった

2人が出会ったのは中学校に入学し、部活動に入部したときだった。私は得意でもない運動部に友達に誘われ入った。
そこで私は彼女と出会ったのだ。顔は日本人には見えないぐらいにはっきりとしていて髪の毛も目の色も少し茶色だった。「きっと母親に似たのだ」と何の根拠もなく思った。第一印象は、静かで綺麗な子としか思わなかった。

部活が始まると毎日毎日とても大変だった。朝練をし、授業が始まり給食の時間まで耐えられず隠れてお菓子を食べ、授業が終わり部活の時間。休みの日は、朝から夕方まで半日練習。帰って寝るだけの生活だった。
冬になり、暗くなるのが早くなった。いつも帰りは1人だったが、怖いので顧問に「暗いから怖い!」と愚痴っていた。そうしたら「何のために毎日走ってるんだ?!」と言われた。
きっと顧問は、悪い人がいたら走って逃げろと言いたかったらしい。私は、かなり年上な顧問に対して「何言っての?」と言いたかった。
あんなにイライラしていたのは今ならわかる。あんた思春期だよ。まぁ、言わなかったけどね。

顧問に挑み顔でいると、あの第一印象が静かで綺麗な子が歩いてきて一緒に帰ろうと言った。私達は帰る方向が一緒なのに1回も一緒に帰ったことがなかった。何故なら、彼女は少し変わっていたからだ。
彼女は少し先輩や周りにいじめられていた。でも、彼女は気づいていなかった。髪の毛のゴムを外されたり、少し仲間外れにされたりしていた。私もその光景を見てきた。見ているだけだった。いや、見ているしかできなかったのだ。
そんなことを考えているうちに彼女は私の名前を呼んだ。ああ、私いま自分のこと守ろうとしていたんだ。

彼女とは馬が合った。ステイタスなんてどうでもよかった

今思うと、中学生とは周りの友達すら自分のステイタスを表すもので、どんな友達がいるかや彼氏がいるかでカーストを決めていた気がする。あの当時、かなり年上の彼氏と付き合っていた子もいた。その当時は羨ましかった。今は、その彼氏と同じ歳になり、中学生を恋愛対象にしてるのはありえないと思う。今風に言うと「やばいやつ」だ。しかし、あの頃は気づかない。
なんてったって、あの頃は最強だと思っていたから。何をしていても傷つかない。余裕だと思っていた。例えるならマリオのレインボーみたいな?我ながら良い例えかもしれないと思う。

話はズレたがあの日名前を呼ばれた日、私は彼女と初めて一緒に帰った。
好きなアニメの話や、部活、お腹が空いたから何が食べたいだとか、ただそういう普通の中学生がしそうな話をした事を覚えている。
その日から、毎日一緒に帰った。彼女とは馬が合った。ステイタスなんてもうどうでもよかった。楽しければそれで。だって最強なんだもん。

私は彼女の気持ちを受け取れなかった

それから長い月日が経ち、公式戦で勝つことは1度たりともなく引退試合まで終わった。
部活も終わり、受験勉強。そして卒業。彼女とは1度も同じクラスになれなかった。だからと言って、関係が崩れることもなくずっと仲良しだった。

そして、気づくと彼女は出会った頃と同じ茶色い目を時々閉じながら下を向いていた。
彼女の恋愛対象は男性女性ともである謂わゆる両性愛者だった。彼女からすればたまたま好きになった相手が私だった。
でも、あの頃の私は付き合っている男の子がいた。だから、彼女の気持ちは受け取れなかった。もちろん、彼女といた3年間は楽しかった。一緒にお泊まりをしてBBQなのにマシュマロを焼いて、学校帰りには禁止されていたのに自販機でジュースを買って何時間も話し込んだ。休みの日にまで遊んだ。春も夏も秋も冬も一緒にいた。
それでも、彼女のことは恋愛対象ではなかった。嫌いじゃない、むしろ好きだ。大好きだ。大好きだけど、彼女は女性だった。
それだけの理由で私は彼女の気持ちを受け取れなかった。

あれからもう何年も過ぎた。高校も大学も別々になった。今、彼女は年上の彼氏がいるらしい。
どうかどうか幸せになって。これからも貴女らしく。