将来の夢は漫画家だった。「だった」と言うと語弊があるような気もするが、「である」と言い切る自信もない25歳の今。私はごく普通の会社員として働く毎日を送っていた。

幼い頃から漫画が好きで、絵を描くことも話を考えることも好きだったから、自然と漫画家に憧れるようになった。主人公が漫画家を目指す作品に影響され、自分も本格的に原稿用紙にペンを走らせるようになった。

雑誌に投稿し、返ってくる批評にときには納得し、ときには反発もしたくなりながら、何度か投稿を繰り返した。その結果、16歳でデビュー賞を受賞し、雑誌に自分の漫画が載った。夢のようだった。

それから1年が経ち、高校3年生の時にもう一作読み切りを載せてもらうことができた。それからは受験勉強に専念し、大学に無事合格することができ、さあここからまた漫画を描き始められる、となったとき。ペンが、止まってしまった。

出したネームはすべて没。編集者の厳しい言葉に反論できない私

なんとなく浮かぶものはあるのだが、上手く作れないのである。
なんとか話を完成させて、ネーム(漫画の下書き)を作って編集者に見てもらうのだが、全くOKが出ない。私も「そうだろうな」と思えるものしかできなくなっていた。

こういうときは一度漫画から離れて、いろいろな体験をしてみると良い、などとよく言うが、大学生活をそれなりに満喫し、サークル活動にも参加してみても、その間に編集者に出したネームは全て没になり、かなり厳しい言葉も言われてしまっていた。
そのとき、「負けてたまるか!」と言う私はかなり小さくなり、「そうですよね。私もそう思っていました。」と言う私がかなり強くなっていた。

大学の4年間はあっという間に過ぎ、就職活動を経て私は社会人となった。「就職おめでとう」という言葉が全く入ってこなかった。
社会に出て働きながらも、どこかで「このままでいいのか?」と投げかける自分がいる。私は忙しさにかまけてその存在に気付かないふりをしてしまっていた。

断捨離で見つけた「ネタ帳」と漫画家になると信じていた頃の自分

そんなある日、私は部屋で断捨離をしていた。捨てるものと残しておくものを分類していたとき、机の引き出しから表紙に何も書いていないノートが数冊出てきた。
ノートを開くと、クラスの誰々がこんな面白いことをしていただとか、思いついた話の設定や、印象に残った名言、その日見た不思議な夢…いつか何かのネタに使えるかもしれない、と思ったことが汚い字で全てこと細かに綴られていた。

それは、私が小学生の頃から書き留めていたネタ帳だった。当時、漫画家になると信じて疑わなかった自分。
学校帰り、原稿用紙に向かい夢中でペンを走らせていた当時の自分が今の私を見たら、どう思うだろうか。情けなくて軽蔑するだろうか。がっかりして落胆するだろうか。まだ遅くない、動け、と叱咤激励するだろうか。当時の自分を裏切るような結果になってしまい、私は謝りたい気持ちでいっぱいになった。

「負けてたまるか!」と言う私は小さくなったけれど、確かに存在する

しかし、当時の自分は謝られて満足するだろうか。
そもそも当時の自分とは、大学時代、編集者に厳しい言葉を言われたときに、「負けてたまるか!」と言っていた自分ではないか。社会人になり、「このままでいいのか?」と問いかけていたもう一人の自分のことではないか。

彼女はいつのまにか小さくなり、自分でもその存在に気付かないふりをしてしまっていたが、それでも今までずっと、自分の中にいたのである。もう一人の自分ときちんと向き合わねばならない。そう思った。

やれるだけやって、それでも駄目ならきっとここまで執着しなかっただろう。
これはもう一人の自分ときちんと向き合ってこなかった結果である。
もう一度やってみよう。今までの長いブランクもあり当然自信もないが、できそうなこと、チャンスに繋がりそうなことはすべてやってみよう。もう決して自分自身に気付かないふりはしない。そう決意して、私はノートを「残しておくもの」に分類した。