謝りたい人。ふと浮かんだのが、中学1年の頃、ほんの一瞬付き合った男友達だ。
彼は幼稚園から一緒だった幼馴染だった。スポーツ万能とは言い切れないし、決して目立つタイプでもなかったが、優しい性格の持ち主だった。小6のときは同じクラスになり、よくお互いの家に遊びにいったりしていた。彼はドラムを習っており、家にはドラムセットがあった。「すご~い!」と拍手しながらドラムを教えてもらったりしたものだ。
学校では、休み時間に音楽室を陣取り、私が弾くピアノに合わせて、彼がドラムを叩いた。よく演奏した曲はI WiSH「明日への扉」。「いつか一緒にバンドでもやろうよ!」なんて話したこともあったかな。
彼なら絶対「彼氏」になってくれるはず。そんな軽いノリでメールを送ってしまった
中学に入っても、彼との関係性は何も変わらなかった。ただ、小学校の頃と違うのはお互い「男」と「女」を意識するようになったことだ。
なんとなく、彼が自分に好意を持っていることはわかっていた。私の方は、彼に対して特別な感情は持っていなかった。ただ、少女漫画に憧れる、恋を夢見る女子中学生であった。
「好き」という感情はわかるような、わからないようなという感じで、大人の階段を上り途中の少女だった。でも、とにかく「彼氏」が欲しかった。彼なら絶対彼氏になってくれるはず。そんな思いから軽いノリで「付き合わない?」とメールを送ってしまった。もちろん、答えはOK。お、ついに私も彼氏持ち。友達よりも一歩リード!なんて思って、つい浮かれてしまった。
しかし、いざ「付き合う」となると何をしていいのか全く分からない。とりあえず、少女漫画にワンシーンのように一緒に帰ってみた。けれど、付き合う前と全く変わらない。彼は手も繋いでこないし、「あれ? 漫画と違うじゃん」となんだかとっても冷めてしまった。
たった1通のメールで始めた交際は、たった1通のメールで終わらせた
結局、数か月だったか、数週間だったか、数日だったか、どのくらいの期間「恋人」だったのか全く覚えていないが、私は彼との関係性に耐え切れなくなってしまい、「別れましょう」とたった1通のメールで終わらせてしまった。
それ以降、彼とは話さなくなってしまった。別のクラスだったので、学校では顔も合わせることなく、家が近いのでたまに近所で見かけるくらいの存在になってしまい、私は貴重な男友達を失った。そのあと、私は別の同級生と付き合い、校内で有名なカップルとなったのだが、彼はどんな思いでその姿を見ていたのだろうか。
彼はもう覚えていないかもしれないが、なんとなく「付き合おう」と言ってしまった子供じみた当時の自分の考えを謝りたいと今更ながら思うのだ。やがて、私たちは中学を卒業し、それぞれ別の高校へと進学した。
勇気を出して彼のお母さんに聞いてみた。「彼は元気ですか?」
あれから、10年以上経った27歳の冬。たまたまインフルエンザの予防接種を受けに、初めて行った病院で、受付の人に声をかけられた。「フルムーンちゃんだよね?」。私は見覚えのない顔に「???」だったが、よく見たら彼のお母さんだった。
小学生の頃は何度も遊びに行ったので、よく知った懐かしい顔だった。彼のお母さんがあの頃の私たちの関係を知っていたのかは分からない。ただ、一方的に気まずかったのだが、勇気を出して聞いてみた。「彼は元気ですか?」と。
そしたら彼のお母さんはこう答えた。「結婚して横浜に住んでいるの」と。この一言で長年曇っていた私の心は一気に快晴になった。
あー、彼は幸せになったのか。本当によかった。もしいつかもう一度彼と会うことがあったら、「あの頃はお互い子供だったよね」と笑って話すことができそうだ。