彼女はいたけど、恋人未満の関係を築けたことが幸せだった

大学生になって初めて一目惚れした男の子がいた。同じ学科だったが、いつも一人で授業を受けて、一人で本を読んでいる子だった。その独特の雰囲気が気になり、気付いたらいつも目で追ってしまうそんな存在になった。声を掛けようと思ったが、なんて声をかけたらいいのか勇気がなくて結局しゃべれずじまいとなってしまった。

時は過ぎて大学四年生。たまたま興味のあったゼミに途中からは入れることになった。ゼミの部屋に入った瞬間、隅っこのほうに座っている例の彼を見つけたときは心が躍った。しかも人数が少なかったので奇跡的に同じ班になり連絡先まで交換できたのだ。

それからというもの気づいたら夜遅くまでLINEをしたり、暇なときはファミレスで終電まで話す関係になった。彼とする他愛もない話、遠慮がちに笑う顔がとても好きだった。彼に彼女がいると知った時はかなりショックだったが、それでも恋人未満の関係を続けられるだけで幸せだった。

「大人になるにつれて友達ができない」とよく言うけれど

大学を卒業したあと、わたしは彼にあまり連絡をしなかった。彼は変わらず連絡をくれたし、写真も送ってくれたりしたが、わたしはそっけない返事しかしなかった。社会人一年目、キラキラした新しい環境、そして新しい出会いに夢中だったから。それでも彼は「最近、どう?」と定期的に連絡をくれていた。

大人になるにつれて、友達ができないと世間ではよくいう。わたしは全然そんなことないと思っていて、会社の同期や先輩たちは中学や高校で出会った友人となんら変わらない存在だ。しかし、みんな年齢が上がるにつれてそれぞれの悩みがでてくる。結婚・出産・仕事・転勤など、自分のことで精いっぱいになってくる。

いま、コロナ禍でそれが顕著になっている気がする。いつもなら自分の悩みを気軽に相談できていた人でも、自分よりもっと深い悩みを抱えているから相談できなかったり、そもそも直接会えないのに、連絡だけするのはどうかなと思ったり…。

彼は昔からずっと「友達」でいてくれた。今だからこそ謝りたい

結局、わたしは誰にも相談することができずふさぎ込んでいた。そんなとき「元気?」と彼から連絡がきた。就職して、私がそっけない返事になってからも、1年に2回ほどは様子を伺うように連絡をくれていた。

とても嬉しくて、お互いの近況を報告し合った。仕事も転職して結婚したこと、彼はなぜ報告してくれなかったのかと怒っていたが、そんな彼も結婚したとのこと。それから、ときどきわたしからも連絡するようになった。彼にはどうしようもない悩み事を相談することもできた。「大学生の時からいつも悩んでいるよね。いつでも連絡してよ」と温かい言葉をかけてくれた。

このとき、わたしは自分の身勝手さをとても悔いた。彼は大学生の時からずっとわたしのことを大切な友達として思ってくれていたのに、わたしはそれを理解していなかった。

そして、なにも気遣うことなくいつでも相談できる相手を「友達」というのだから、社会人になってからは「友達」というものができにくいのだと改めて思った。一目惚れの相手と仲良くなれて舞い上がっていただけの自分が情けなくなったし、彼にとても申し訳なくなった。直接、このことを謝ることはまだできていない。たぶん、恥ずかしくて謝ることはできないだろう。

だからこれからは、自分を大切にしてくれる「友達」をもっと理解して、その人との関係性をより大切にしていこうと思った。