1月の部活終わりの帰り道、高校の最寄り駅のホームで「好きです。付き合ってください」と私の目を真っ直ぐ見つめて恥ずかしそうに言う君は、私の好きな人だった。
好きな人の”はず”だった。
震えた声で、彼の真っ直ぐな目線から逃げるようにお願いしますと返したこともよく覚えている。
高校1年生、2年生でクラスメイトだった彼は優等生で強豪の部活の部長、ちょっとした人気者で修学旅行を機に仲良くなった。付き合う前に彼が私のことを好きという噂も流れて、とても照れながら否定したことも、付き合う前のはじめてのデートをどんな服装で行くか悩んだことも、LINEが苦手だった彼が私と話すうちに返信が早くなっていったことも、全て鮮明に覚えている。
恋愛経験の少ない二人のぎこちない交際。だんだん気持ちがわからなくなる
付き合って最初の頃は楽しかった。
毎日のおはようとおやすみ、1週間に1度は部活終わり一緒に帰って、回数は少なかったけれどデートだってした、手だって2回くらいは繋いだ、部活の仲間と恋バナをして盛り上がりもした。付き合い初めは、付き合ってからの日数をカウントするアプリを暇な時に眺めてはニヤニヤしていた。
ただ、私も彼も恋愛経験は少なくて、学校では緊張して話せない。挨拶だって緊張してつっかえてしまう。そんな日々が1ヶ月続いた。周りからの冷やかしで隣の席となってしまった彼との無言の時間が辛かった。
次第に私は彼が好きなのか分からなくなってしまった。
LINEも億劫になり、おやすみの数が減り、ごめん寝てたの回数が増えていった。顔を合わせるのが嫌で、ずっと下を向いていた。休み時間友達の机に行き、彼の隣の席である自分の席にはいないようにした。
そして、そんな自分勝手な私が嫌いだった。こんなわがままな私のことが好きな彼のことが怖くなった。LINEで伝わってくる向こうからの愛情が更に私を惨めにさせていった。
嫌なところが見えてきても、向き合うことが出来なくて
段々彼の嫌なところも見えてきてしまった。他人の秘密話を楽しそうに話すところや、人の外見をいじるところ、周りから信頼されている彼がそのようなことをする人ではないと思っていたから、衝撃がとても大きかったことを覚えている。
周りが言うような、嫌なところも含めて好きなんて感情にはならなかった。否、なれなかった。
嫌なところと向き合うこともできなかった。彼なら言ったら辞めてくれることは分かっていた。でも、私は結局、彼から目を背けてしまい、理由は告げず別れを切り出した。
彼は優しい人だから、別れたい理由は言いたくないと伝えたら、寂しそうに承諾した。言いたくないと言うよりも、なぜここまで別れたいのか自分でもハッキリしていなかったのだ。
別れの理由を言うとしたら、なんという言葉でまとめられるのだろうか。
私が未熟だったから。ずっと話さなかったから。周りからの冷やかしに耐えられなかったから。彼と私の好きという感情の差があることが辛かったから。嫌なところに幻滅してしまったから。彼に私の理想を押し付けてしまったから。自分を責めるのが辛くなってしまったから。自分が弱かったから。
どの理由も正解だと思う。
ただひとつの理由を挙げるとするならば
私のふった理由は、私の愛が足りなかったから。