どうしても眠れない夜は、当時大好きだった同級生の彼に別れを告げたLINEのトーク履歴を見返している。

なぜ、大好きだったのに別れたのか。

「俺さ、将来お前と結婚したいけど、事実婚がいいんだよね~」と言われたから? 潔癖症な彼にバレンタインの手作りチョコを拒否されたから? 誕生日プレゼントなにがいいか聞いたら、大学生の私に約10万円の代物をねだってきたから? そのくせ誕生日当日は、お母さんの料理が食べたいからという理由でデートの誘いを断られたから? ディズニーランドに行ったときに、アトラクションの待ち時間の間ずっとスマホゲームに夢中だったから? 夜の営みは、彼の欲求を満たすためだけの行為で愛を感じなかったから?

どれもこれも大半の人から「別れろよ!」と言われそうな出来事だが、これらに不満はありつつも私から別れを切り出すような理由にはならなかった。

ただ一つ、彼が夢を追いかけ続けたことを除いては。

元彼はやりたいと思うことや夢に向かって、即行動に移す人だった

元彼は「やりたい!」と思ったことは、すぐに行動に移す人だった。就活をしていた大学3年生のとき、突如「俺、デザイナーになりたい」と言って大手企業の内定を辞退し、理系でありながら独学で美術系大学の試験勉強を始めた。

かと思えば「俺バンドマンになるわ」と言ってライブハウスに籠り、いつの間にかバンドを結成していた。その数か月後には「1年間、北欧に留学するわ」と渡欧宣言を受けた。ときには「35歳まで働かない」宣言をされた。

報告を受けるたびに「この間は○○するって言ってたじゃん!?」と言うと「うん、でも今はこれがやりたいからやる」と驚くほど堂々としていた。

私も彼のように「やりたい!」と色々なことに興味を持つタイプの人間だ。

でも、彼と決定的に異なるのは行動力。やりたいと思うことに遭遇したとしても「今までこの分野を勉強したことないし絶対できないよな……」「前は○○がしたいと公言したのにやっぱり△△をしたいなんて、周りの人から根性なしとか飽き性と思われるだけだよな……」「一般的にはこうあるべきだから、夢ばかり見ていてはいけないよな……」と世間の目を気にして夢を夢のまま終わらせていた。というよりも、世間の目を言い訳にして夢や興味関心から逃げてきたのだ。

それは、自分が傷つきたくないから。挫折を味わいたくないから。

私は自分の気持ちに素直に生きる彼が、死ぬほど羨ましく妬ましかった

彼が自分の欲望に正直に生きることで、私をないがしろにしていたから別れようと切り出したわけではない。

世間の目を気にせず自分の気持ちに素直に、そして傷つくことを恐れず生きる彼が死ぬほど眩しくて、羨ましくて、妬ましくて、別れた。

自分の人生に責任を持ち思うままに生きようとする彼の側に居ると、すべて世間のせいにして夢を諦め、夢を追う人に嫉妬する汚い自分を思い知らされるから、別れた。

私は、自分の夢や興味関心だけでなく、彼からも逃げたのだ。

別れてから元彼への妬みは昇華され、新たな「スタート」を切る

別れて1年半ほど経つ現在、一般論を言い訳に利用して自分の気持ちから逃げてきた私は、自分の人生ぐらい自分で責任を持ち素直に生きたいと思い、夢を叶えるスタートラインにやっと立つことができた。

別れた当時、彼に抱いていた嫉妬心は消え去り、彼に出会えたからこそ今の自分がいるのだとむしろ感謝している。

今でも彼のことは特別だ。その証拠に、LINEのトーク履歴を消せずに何度も見返しているし、ツイートを見かけるだけでドキドキする。彼に似ているジャニーズをテレビで見かけると顔が熱くなってしまう。

でも、不思議と彼と寄りを戻したいとは思わない。昔の思い出として昇華されたのだと思う。

彼と付き合えて本当に良かった。そして、別れて本当に良かった。