「こんな職場1年で辞めてやる、第二新卒で転職してやる」
配属されてから1カ月以内にそう誓っていた。
小売業界に入った新卒の私は、店舗で働くことになった。
入社前、最初は店舗でもゆくゆくは本社でバイヤーとかできたらいいなと思っていた。
だが、現実はそんなに甘くない。ずっと店舗で働くことの方が可能性としては大きいことを、姿を通して教えてくれる店舗の先輩社員。
目まぐるしく、メイクは眉毛だけで十分なほどドタバタ忙しい毎日
配属された店舗は売上全国トップ10に入る店で、毎日が目まぐるしく忙しかった。シフト制で生活リズムなんてなく、休みの日はベッドから出られない日々が続いた。
社会人になり、毎日メイクもちゃんとしなきゃと思っていたが、そんな余裕なんてすぐになくなり、眉毛だけ描いていけば十分になっていた。
毎日のように、辞めてやる、辞めてやると心の中で唱え続けながら、いろんなことを言うパートのおばさまたちの対応や、どんなに理不尽なことを言われても“作った笑顔”でひたすらお客様対応に追われていた。
今日もまた、ドタバタしてたら1日が終わるんだろうなと思いながら憂鬱な気持ちで出勤した遅番のある日、見かけない人が店の事務所にいた。
メーカーの営業さんだった。いつも来てくれる営業のおばさまではなくて、同世代くらいの若いお兄さんだった。店で扱う新商品の説明をしに来たみたいだ。無愛想な感じの人で、“なんかこの人、嫌な感じだな”というのが第一印象。まあ、会うのは今日が最初で最後だし、どうでもいいや。と思いながら自分の仕事に取り掛かった。
メイクもろくにせず仕事に追われる私を、彼は「心底可愛い」と言う
不愛想な営業さんが来ていたことなんて忘れかけていたある日、突然、馴染みの営業のおばさまから連絡先を聞かれた。おばさまがニヤニヤしながら、「この前来てた営業の○○があなたと話してみたいんだって」と言った。私の頭の中には?マークばかりが浮かんだ。挨拶もまともにしてないし、メイクもろくにせず眉毛しか描いてなくて、よく職場では「顔、死んでるね」と言われる私だったから。
“何故わたし??”となったが、拒否する理由も特になく、連絡先を教え彼と連絡を取り合うようになった。第一印象の彼とはかけ離れた優しい人だった。連絡を重ねるようになり、彼への気持ちが大きくなっていった。
着飾った姿でもなく、可愛くみられたいと思ってる瞬間でもなく、ただひたすらに目の前の仕事に追われる私の姿を、彼は“可愛いと心底から思ってます”と言ってくれた。それが彼を好きになる決定的な言葉だった。
それからはいつ彼が店を訪れてきてもいいように、ちゃんとメイクをして仕事をするようになった。彼と共通の話題が仕事だった為、今まであんなに嫌でたまらなかった仕事を進んでするようになった。1日の終わりに今日は仕事でこんな事があったよ、と報告する為に。
お互いに仕事のことで悩めば励まし合い、助け合った。
”営業のお兄さん”の彼は、店では挨拶もせず、何も関りの無い他人に
気づけば彼とご飯に行くようになり、休日に出かけるようにもなった。家に来ることも当たり前になる関係になった。連絡も仕事の話だけでなく、たわいのない話をすることの方が多くなった。
彼は今も時々、“営業のお兄さん”としてうちの店に来る。店では挨拶もせず、何も関りの無い他人になる。私がお昼休憩の時間を見計らって店を出てくれて、こっそり2人でご飯を食べる。職場では公言していないため、2人でいる時間にドキドキして、何事もなかったように仕事に戻り、また他人になる。
これから先、私と彼がどうなるかなんて何も分からないが、少なくとも今は幸せだ。
働く理由としてはあまりよろしくないのかもしれないが、今の私にとって働く理由は“彼”だ。
もしも、新卒の時にすぐ辞めてしまっていたら彼に出会うことは無かっただろう。
働く中で、悔しくて泣いてばかりだった自分がこんな数年後を迎えているなんて、新卒当時の私は信じれないと思う。
新卒の私へ、
辞めたいと思う日々ばかりだったけど、頑張って食いしばって働き続けてくれてありがとう。おかげで素敵な彼に出会えました。