彼の考えや鋭い指摘が好きだった。それが私に向けられた途端、心がへし折られた
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彼と出会ったのは、大学一年生の時だった。
田舎から都会の大学に出てきて、高校の時には出会えなかったような面白い人たちが大学にはたくさんいた。
そんな中で、知り合いの先輩からいろいろな話題について議論する自主ゼミを紹介していただき、わたしは参加することになった。
やはり議論が好きな人が多いだけあって、皆さん話がとても論理的で、知的だった。私はとても心躍る時間をすごすことができた。
いまでもあの時間は宝石のようにかけがえのない大事な財産となっている。
そんな中で、1人だけ異色な先輩がいた。
すごい突飛な意見を言っているけど、なぜか話を深く聞くと納得してしまう。
そして議論の時も、他の人が思いつかないような、だけど本質をついた切り口で意見を述べていた。
たやすく大多数に迎合しない、そんな雰囲気が彼にはあったのだった。
最初は、なんでこんな発想が出来るんだろうという興味だったけど、それはだんだんともっと彼を知りたいという恋心に発展していった。
いろいろ話を聞くうちにだんだんと夢中になっていく。
私の問いかけにも彼は思わない回答をしてくれる。
この彼との会話は、とても調和の取れたセッションのようで、心地よいものになっていった。
知り合って、初めての冬。
彼は冬休みをつかって東南アジアに旅行すると言う。それは陸路で移動するというとても危険な旅だった。
もしかしたら会えなくなってしまうかもしれない。思いを伝えることができなくなってしまうかもしれない。
私はゼミの帰りに家まで送ってもらっていた途中の道で、思い切って自分の気持ちを告白した。
彼は優しく抱きしめてくれて、自分も好きだと言ってくれた。
外で寒いはずなのに、心と触れられた部分はとてもあったかかった。
付き合い出して、2人で同じ趣味を見つけて、私は夢に見ていた素敵なキャンパスライフを過ごしていたと思う。
私の下宿で過ごす時間も増えていった。
彼の意見を誰よりも近くて、誰にも邪魔されない空間でずっと聞けることはとてもうれしかったし、贅沢な時間だと思っていた。
けれど、2人でいる時間が増えていくたび、ニュースやゼミの続きを議論していくと段々と意見が合わなくなってきた。
それは、2人の間にぎこちない雰囲気を作り出すのには十分な理由だった。
あんなにも、付き合う前は、彼の言う意見や鋭い指摘が好きだったのに…。
それが私に向けられた時に、だんだんと私の心もへし折られていくような感覚に陥ってしまった。
きっと、大人になった今だったら上手くその意見にも対処できてたと思う。
けど、子供だった私は彼の発する意見がどうしても私を否定しているようにしか聞こえなかった。言葉のナイフで心がだんだん切り裂かれていく感覚に陥ってしまった。
初めて2人で迎える秋、
青々しかった葉っぱも色づき、木から離れていく季節。
私は彼にお別れをした。
「彼女」という立場からは、彼の本質をとらえるような鋭い意見を述べる良いところを
受け止めきれることができなくなってしまったからだ。
いまなら、きっと、彼の良いところを、私は肯定的に捉えられると思う。
でもあの時の私はお別れして気持ちの整理をするしかなかった。
この恋をへて、わたしは自分の気持ちだったり、人の言葉について学べたと思う。
こう振り返ることができるのは
私が大人に成長したからかな。
辛かったけど、成長できたとてもいい恋でした。
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