今日もまた…。
今日も仕事が終わったのは、24時を回ってからだった。まだ10月、ブライダルの繁忙期は始まったばかりだ。
私はブラック企業で、正社員にはならずに「バイト」をしている
高校1年生のとき、始めたばかりのブライダルのバイトにのめり込んでしまって、私は高校を辞めた。
バイト先のホテルの課長に、社員にならないかと強く誘われたという事もあったのだが、まだ16歳だった私にとって、この世界はキラキラしていて、素敵に見えた。
ブラック企業だったのは分かっていたが、忙しささえも楽しかった。しかも、まだ16歳だったから、私は絶対に22時にはバイトを上がっていて、本当のブラックな部分を知らなかった。
学生を辞めて本当のブラックな部分を知った私は、18歳になってもなんやかんやズルズルと正社員にはならずにバイト生活を続けている。
最近の人手不足は深刻なようで、私は毎日3センチのパンプスでホテルを走り回っている。もちろん、ホワイエ(お客様が通る表の道やロビーのこと)は上品に歩く。
このバイトを始めるまで知らなかったけれど、ブライダルのバイトというのはなかなかしんどい。料理を出すだけが仕事ではない。私たちの仕事は机や椅子の用意、つまり会場のセッティングから始まって、会場をフラットに戻すことで終わる。
シフトも12時間なんてザラだし、私のような学校に行っていない人の扱いはひどい。夜遅くまで残れると思われているのだ(実際、そうなのだが)。「疲れたから帰りたい」なんてことは言えない。
バイトだから耐えられる。でも、社員になったら耐えられないと思う
私はまだマシだと思う。私はまだ正社員じゃないから、働けば働くだけお金が貰える。ブライダルのバイトの時給は相当良いから、きつくてもギリギリ耐えられている。バイトの時給は良いのだ。
でも、社員は最悪だ。手取り16万円なんかで、ゴミのように働かされている人がたくさんいる。社員はボーナスがあるし、福利厚生もしっかりしてる。だけど、それでも圧倒的に割に合わないくらい働かされているし、愛社精神までも求められている。
課長は、絶対にバイトには怒らない。怒らないというか、むしろものすごく優しい。でも、社員に対しては別だ。課長に怒鳴られて、泣いている社員を見ない日はない。
だから私の働いているホテルでは、社員よりたくさんシフトに入っているバイトの方が稼げるし、仕事中も楽しいし、プライベートの時間もある。
そんなことで私は、将来のことを考えると社員になった方がいいとは分かっていたけど、全くそんな気は起こらなかった。だけど、このホテルだってバイトはどんどん若い人を採るから、歳をとる前には「社員になってくれ」と言われている間には、社員にならないといけないのかという不安はずっとあった。
大好きな先輩が残してくれたメッセージ。でも、私は弱いんだ…
先輩、ごめんなさい。
この前、大好きだった社員の先輩が辞めた。私のことをものすごく可愛がってくれていた。高校を辞める時も、その人だけが止めてくれた。それでも、結局辞めてしまった私のことを嫌わずに、ずっと優しくしてくれていた。
「辞めてしまうのが悲しい」と泣く私に、先輩は「人間らしい生活がしたいの」と言った。悲しそうな、申し訳なさそうな顔だった。「あなたも幸せになるのよ、幸せな道を選ぶのよ」と、最終出勤日に先輩がくれたメモにはそう書かれていた。
先輩が辞めてしばらくしてから、課長は「そろそろ正社員になろうか」と私に言った。先輩の言葉が頭をよぎったけれど、私は「はい」としか言えなかった。
私は弱いのだ。高校すら途中で辞めてしまった、中卒の私をまともに雇ってくれる会社なんかないだろう。実際、ここを辞めていった、私のような中卒の女の子たちはみんな、ガールズバーやキャバクラ、風俗に流れていた。
きついし、幸せな未来も見えない。だけど、私にはきっとここ以外はもっとひどくて、ここ以外ないのだと思う。