桜みたいにパッと咲いてパッと散るような人生を送りたい。物心ついた時からずっとそう思っていた。今までたくさんの夢を叶えられなかった私だけれど、その夢だけは叶いそうだ。

難病宣告をされた直後、笑顔の可愛い彼と付き合い始めた

私は難病を患っている。彼は人の命を助けるお医者さん。
犬のような可愛い笑顔がトレードマークの彼と一緒にいたら、「つらい現実」からすこし目を逸らすことができた。それが付き合うことにした一番の決め手。

たわいもないことを話して、お笑い芸人の真似を全力でして笑わせてくれて、毎日欠かさず「愛してる」と「好きだよ」を伝えてくれる。「二年後には結婚しよう」って、そんな話をしていて、私にはもったいないくらい最高に幸せな時間だった。

付き合い始めたのは、私が難病宣告をされた直後の大学三年生のとき。彼は国家試験を控えた医学生だった。試験勉強で忙しいはずなのに、毎日連絡をしてくれて会ってくれて、普通の女の子として扱ってくれた。
意を決して私の病気について伝えた時は、「なんで蒼空なんだろうね」って、いつもニコニコ笑っている顔をグシャグシャにして泣きながらヨシヨシしてくれた。

私の未来が見えるようになって、不安と戦う彼に変わった

医学生だから多少の知識はあるけれど、「もっと蒼空の力になりたい」と国家試験の勉強に加えて、私の病気に関する勉強もしてくれていた。

「僕は蒼空の病気を治せる医者になりたい。だからそれまで生きていて欲しい」

そう言ってくれた時は本当に嬉しくて、二人で時間を忘れるほど涙を流した。ずっとこの幸せな時間が続くと思っていた。けれど彼が研修医になると状況が変わった。

「蒼空と結婚できたら幸せ」だとニコニコと話していた彼はいなくて、私がいなくなってしまう不安と戦う彼に変わってしまった。

蒼空がいなくなった後、僕はどうやって生きていくのか。僕は想像もできない悲しみに耐えることができるのか。彼は彼なりに私のことを考えてくれていた。

けれど私はわがままだから、「蒼空がいなくなるまでずっと支えるよ。それまで一緒にいたい」という言葉をずっと待っていた。
けれど、最後までその言葉を聞ける日は来なかったね。私は彼が初めて出会った日に言っていた言葉をずっと覚えている。

「お医者さんの一番辛いところは、大切な人の未来が見えてしまうこと」

あなたには私の未来が見えていたんだね。辛い思いをさせてしまってごめんね。

でも、その未来を嘘でも見えないふりをして、「大丈夫だよ」って励ましてほしかった。あなたと一緒にいる時だけは、現実から目を逸らしたかったんだ。

医者としてではなく、私を愛する人としての言葉が欲しかった

彼は言っていた。「医者は、根拠もなく『大丈夫です。治ります』と言うことは絶対に許されない」のだと。医者としての彼ではなく、私のことを愛している一人の人としての言葉を欲していた。

だから、私は彼の元を離れることに決めた。最期の日がいつかいつかと、不安に思いながら生きるのは私らしくない。桜のようにパッと咲いてパッと散りたいのだから。

あなたと一緒にいると、毎日最期の日を不安に思いながら生きるしかないじゃない。
なかなか別れを受けてくれなかった彼には、「好きじゃなくなった」と嘘をついた。
あなたのことを好きじゃなくなるなんて有り得ない。

これから歩けなくなって、話せなくなって、ひとりで何も出来なくなっても、あなたの優しい笑顔だけは覚えているからね。天国に行っても生まれ変わってもあなたのことを忘れる日はないからね。

きっと彼は誰かから私がいなくなったことを耳にするだろう。あなたは、優しいから「自分のせいだ」と自分を責めてしまうかもしれない。でも、あなたは何も悪くないのだから、その笑顔でこれからもたくさんの患者さんを救ってあげてね。