クラスで初めてあいつを見た時から、あいつとは何か起こるなと感じた。
人間十年以上生きたら感じることがあると思う、あの感覚、案外当たったりする。

中学初めての春、同じクラスだったあいつ。
私は、イタズラ好きで秘密主義だったあいつのことが大嫌いだった。
卑怯な感じがして、馴れ馴れしく近づいてくるくせに、良くも悪くも口が固くて。
まあ、今となってはそれがあいつの他の同級生にはない魅力だったんだと思う

次の春、あいつとだけは絶対同じクラスになりたくなかった。
なのになっちゃった。しかも新年度早々隣の席。
嫌よ嫌よも好きのうちって言うけど、あれは本当。最初は本当に嫌いだったはずなのに、あいつとイタズラし合ってるうちに好きになっちゃった。

好き。って言えるわけない。あいつにも周りにも、あいつのこと嫌い宣言している。
思春期な私は素直になれないけど、振り向いて欲しいなんてわがままなことを毎日考えていた。

あいつが遠くに行ってしまう気がして聞いてみた「好きな人いるの?」

あいつ、10人以上から告白されたらしいよ。そんな話が耳に入った。
学校でよくある恋愛噂話ってやつ。素直になれるその10人以上の女の子達が羨ましかった。
そして焦った。
あいつが遠くに行ってしまう気がして。でも私だってじっとしているほど大人しい女子じゃない。これを機にとうとう聞いてみた。

ねえ、好きな人いるの?

あいつは秘密主義。そんなの重々承知。私だって1回聞いただけで引き下がらない。
あいつは言った。
「手紙今度書くから、それで教えてやるよ」

小さい色画用紙にシャープペンシルで書いた小さい字。何だか性格が現れるなーって苦笑。
そんなものでも、私にとっては大切な大切な宝物。
誰にも見られたくない、取られたくもないから、もらったらこっそり学校のトイレの個室に行って一人で読んでた。家まで待てないもん。

秘密主義なあいつがくれた手紙。好きなやつは、私じゃなかった

秘密主義なあいつは中々答え出さない。でも手紙という宝物をもらうのは嬉しかった。
4個目の宝物をもらった時、答えがきた。
「好きなやつは、あのこ」
あのこ、は私じゃなかった。

気づいたら頬が濡れてた。トイレの個室から出れなかった。
私、強くて負けず嫌いだからさ。傷つきたくないし、あいつとはイタズラし合う悪友でいたいからさ、自分の気持ちを殺すことにした。

中学最後の春、あいつは隣のクラスだった。
数メートル先にはあいつがいるはずなのに、クラスを隔てる壁のせいで遠く感じた。
卒業前、あいつがあのこと付き合っているって耳にした。
完全に振られた。涙はでなかった。ただ心にぽっかり穴があいただけ。

あれから10年近く、あいつ以来誰かを好きになっていない

あれから10年近く、あいつには会ってない。
私はあいつ以来、誰かを好きになっていない。
理由ははっきりしている。私の心の片隅にあいつがまだ住み着いているからだ。
あいつに最後に好きって言えなかったから、次あいつに会ったら言うことは決まってる。
そして、
「ありがとう、私に人を好きになる気持ちを教えてくれて」
って言うんだ。新たな次の一歩を踏み出すために。