ふられたことの方が多い人生だ。だから、生まれて初めてふった男のことは、2年たった今でも鮮明に覚えている。

2年前の12月。私は溢れてくる涙を止められないままで「もう別れた方がいいと思う」と、馬乗りで私を見下ろす彼に向かって伝えた。

25歳まで「今が良ければいい」と思って彼氏を作ることはなかった

彼とは、マッチングアプリで出会った。3万人ほどが住むこの小さい島の中で、10歳上ではあったが、若い男の人と出会うことは、関東から来たヨソモノの移住者である私には稀なことだ。

私は島に来るまで、ちゃんと付き合ったことがなく、25歳にもなってフラフラとしていた。ふられたり、面倒くさくなったり、やりっぱなしにしたり、やりすてられたり。要するに、今が良ければそれでよかった。

顔も名前も覚えていない男達が、私の上で腰を振りながら過ぎ去っていった。元々住んでいたところでは、簡単に嘘をつくことができたし、嘘をつかれたとしても、真偽を見分ける意味も見分ける術も持たなかった。

しかし島では、嘘はすぐにバレる。異性を連れて居酒屋へ行けば、すぐに噂になる。そんな、お節介な島。今まで散々どうでもいいセックスを重ねてきて、すっかり疲れ果て、うんざりしていた私には好都合だ。

心機一転「この島だったら彼氏を作って、ちゃんと家族を作ることができるはず」と意気込んだ。その結果にできたのが、マッチングアプリで出会った初めての彼氏だ。

初めての彼氏。嬉しかったけど、彼といても「居心地」が悪かった

彼は「結婚前提に、お付き合いしてください」と言ったのだ。今までそんなことを言われたことも、期待もしたことがなかった私は、舞い上がって彼の実家に入り浸った。

彼の実家に行くということ自体が、初めてで嬉しかった。でも、私はずっと緊張しっぱなし。何しろ、他人の家なのだから。

でも、長男の嫁に行くなら、私はずっとこの家に嫌でも住まなきゃ行けないのかな。田舎で嫁に行くって、そういうもんみたいだなと思っていた。なぜなら、両親が6歳の頃に離婚していて、夫婦や嫁姑のいざこざをほとんど見たことがないので、そう自分に言い聞かせるしかなかった。

私の知らない話で盛り上がっている夕食。それと、何度言っても直らない彼の箸癖の悪さ。

無遠慮で無粋な好奇の目。いつもどんなふうに振る舞ったらいいか、何を期待されているのかわからなくて、聞かれたことだけに彼の家族の機嫌を損なわないように答えていた。気が強い彼の母親と妹にずっと気を遣っていた。婿である彼の父親だけは、私に優しく気遣ってくれていたが、女性陣を御する力は持っていなかった。それを「居心地が悪いと言ってよかったのだ」と気がついたのは、最近のことだ。私は知らないうちに我慢をしていた。

でも、「きっと彼を手放したら、私なんかに次はない」と勝手に自分を追い詰めた。それに、彼の良いところもたくさんわかっていたし、彼の暗くて理屈っぽいオタク気質な性格は、私を落ち着かせた。

けれどある日、彼が私に「贈り物は、あげるのももらうのも嫌いだ。見返りを求める行為だから」と言ったのだ。私は、一度もそんなふうに考えたことはなかった。

たったそれだけの短い言葉が、頭の中でいつまでもループしていた。彼の言葉が哀しくて、泣きながら議論もしたけれど、彼は絶対に自分を曲げなかった。それまで1年半以上付き合ってきて、島から出た時に少しのお土産を買ったり、お互いの誕生日を祝ったり、クリスマスプレゼントを贈りあったりしてきた。あげるものももらうものも高価なものではないし、そんなことをしたかったわけではなくて、ただ相手が喜ぶ顔を想って楽しんでいた。

そういう気持ちで、彼の両親にも父の日、母の日、それぞれにプレゼントを贈っていた。その全ての時間が、私にとっては愛おしい時間で、大切な思い出だったのに、それが全て彼にとっては不要な時間だったのか。そこを根本的に理解できない人なんだと思うと、彼のことが遠い星の人のように思えて、どんどん冷めていった。

私と彼は根本的に理解し合えない。だから別れて「大正解」でした!

この人と一緒にいても、一生幸せになることはない。それを自覚したとき、他の我慢していることも全て嫌になった。

彼の家に行く回数が減り、彼の趣味にも付き合わなくなり、連絡も減っていく。一緒にいても、いつ言おうかと常に頭によぎる。

そうこうしているうちに冬が来て、12月になった。私は、もうこの人からクリスマスプレゼントをもらいたくないし、彼を喜ばせることもしたくない、と決心した。クリスマスの1週間前に、彼を家に呼び、別れを告げた。

伝えるときは、今までの時間を思い出して涙が溢れた。そのとき、彼が「本当に俺と別れちゃって良いんだね?後悔しない?」と言った。それを聞いて、涙が止まった。この人は、私がなんで別れたがっているか、全然わかっていなかったんだ。わかっていたら、そんな言葉は出てこないはずだ。伝えてたつもりが、伝わっていなかった。

今だったら言える。あんたと別れて、大正解だった。2年も経ったけど、1回も後悔なんかしたことない。でも、エッセイのネタになったことは、ありがとね。