ちょっとした価値観の不一致や方向性の相違が起こるだけで、あっさりと人間関係は崩落すると身を持って知った。
去年の春、あるカメラマンと縁を切った。女としても、モデルとしてもである。
私たちはモデルとカメラマンとして、同じ方向を向いていたはずだった
同い年の男の子で、得意分野は報道記録写真。人物撮りのポートレートは、趣味撮影がメインで、“楽しく撮りたい”がモットー。とはいえ、私が遊びも本気タイプだったので、お互いのことを屈託なく言い合った。彼が撮りたい写真が撮れるように、彼の好みや要望はもちろん、モデルとしてどうして欲しいかや何をすべきかまで細かく聞いた。ファッションやメイクの好み、ヘアスタイル、日頃の身体管理など。
「楽しく撮れればなんでもいい」というのは口先だけで、聞けば聞くほど出てきた。はっきりいって、普通の生活をしていたらセクハラやプライバシーの侵害だと思われることもあったと思う。「モデルだから仕方ない」が、どこまで通用するのかは今でも不明だ。
彼は専門学校を卒業したのち、地方のカメラスタジオに就職した。多少遠距離にはなったものの、ちょくちょく私の地元にも来て会っていた。会っていたといっても、撮影してもらうことだけではなかった。
私の部屋に泊まっていくだけの日もあった。その前後は他の女の子を撮りに行ったり、他の仕事を捌いたりしていた。私自身の撮影より、そういう日の方がちょっと多かったかもしれない。それでも「なんとなく一緒にいて居心地いいから」と思い、関係を続けて1年くらい経ったとき、彼が地元に戻ってくることになった。
私の気持ちを考えてくれず、自分の「下半身」に任せて動く彼
彼が地元に帰ってきてまもなく「泊まらせて」とメールが来た。引っ越しで大変なんだなと思って、ひとまず承知した。ちなみに私はこの時、女としていろいろありすぎて絶不調だった。その状態に至るまでの経緯は彼自身にも話してあった。
それでも彼は、性行為を迫ってきた。「嫌だ」と言っても「胸だけ…」と言って触ってくる。気持ち悪い。改めて「向こう1年くらいはそんな気分になれないし、しない」と伝えた。
その後、彼が「しんどかったから、ヤって慰めてもらおうと思って」と言った。女としては、もうこの段階であり得ない。しかし、モデルとしての関係が良好だったので、ラストチャンスで見逃した。
ある日の夕方、久々に撮影に2人で出かけた。私がそもそも車を持ったことがないので、移動は彼の車と運転だ。適当にのらりくらりと良さげなロケーションを探す。
広めの公園の駐車場に車を止めて、何枚か撮影する。どうも彼は、私が無造作にショートヘアにしてしまったことが気に食わないらしい。撮ったデータを見ながら文句を言う。私はその日、笑いたい気分だったのに「スナップくさくなる」と笑顔でいることにすらご不満のようだった。
そのあとは夜が更けてから撮りたいというので、車内で待つことにした。そこでまた、“ヤラせてからのお胸タッチのコンボ”がきたのである。極めつけは、下半身を指差して「この責任、どう取ってくれるの?」だ。逃げられない・遠方での車の中である。そうか。撮影よりヤリモクか。
いろいろ好みも聞いて、ファッションも好みのテイストを揃えたし、姿勢やスタイルだってかなり改良した。メイクだって、毎回テイストを聞いてるのに「濃すぎる・薄すぎる・とにかく違う」とだけ言い、具体案を示さない。かと言って他の、なんとなく撮られてみたい女の子たちみたいに“楽しく”撮影できるわけでもない。その日の撮影は、適当に終わらせた。
安心できるからって、なんでも吐き出していいわけじゃない!
後日、彼は自分の下半身めがけて捨てられた私の言葉が化膿し、相当参っていた。自分の下半身に責任を取れというなら、その下半身絡みで溜まった私の心の膿にも取るべき責任はあるだろう。その膿をがっつり引き取ってもらった。
そして、彼の存在諸共、彼が撮影した写真のデータをゴミ箱アイコンをポチって捨てた。
そんな彼の話をしたら「一緒にいて安心できると思ってたんだよ。いい女だったんだよ」と言う人もいたが、こちらとしてはいい迷惑である。安心できるから、なんでも吐き出して、ポイ捨てしていいわけじゃない。最低限の礼儀くらい、弁えろ!