仕事で、上司と2人で外出した。
帰社途中。社用車の中で、60代の上司と2人きり。
手を握られ、指をさすられ。頭を撫でられた。
「俺は君のこと、実の娘のように思っているから」。
鳥肌が、止まらなかった。
私に父親はいないし、それは私のプライベートな部分であって、この人には一切踏み入る権利はないのに。
極め付けに。突然、昔その上司が年下の女性と不倫をしていたことを打ち明けられ、こう言われた。「俺があと、20歳若かったら手を出してたよ」。
上手く笑えたか、わからなかった。その夜、私はお風呂場で1人涙を流した。
私は、女性としても、1人の社会人としても“軽視”されたのだということを、理解したからだ。
お風呂から上がった私を見て、母が問うた。
「今日、会社で何かあった?」
私は数秒置いて、何もなかったよと答えた。次の日、私は普通通りに会社に行き、仕事をした。上司は、シフト休みでいなかった。
仕事が終わり、自宅に帰り、晩ご飯を作って母と食べた。
母に昨日のことを話し始めた。知らず知らずスマホの画面が濡れて・・・
食後。母はテレビを見ていた。私はスマホを見ながら、不意に、昨日のことを話した。
「上司が突然、爪を綺麗にした方がいいって言ってきて、手を取って、指を触って、話の流れで頭を撫でられて…」
そこまで話して、言葉に詰まった。
知らず知らずのうちに、私の目からは涙が溢れて、スマホの画面が濡れていた。
「それで、それで、」
そこから先の言葉が、どうしても口から出なかった。自分がそういうことを言われたことがはずかしくて、悔しくて、苦しくて。吐き出したいのに、吐き出せなかった。
気づけば母は、私の背中に手を当てていた。
「それで?」
母の言葉に、私は泣きながら「俺があと、20歳若かったら手を出してたよ」って、言われたと震える声で話した。
母の本気の目に、私は侮蔑され女性として見下されたことを自覚した
母は、即座にテレビを切って、私を起き上がらせて、私の目を見て言った。
「それは、セクシャルハラスメントよ。その言葉は、絶対に言われて、許していい言葉じゃない。」
私の目にティッシュを押し当てて、言った。
「その会社、今すぐ辞めなさい。その上司に、私が退職の意向を告げに行くから。」
母の目は、本気だった。私は更に泣いた。
やっぱり、私は、侮蔑されていたのだ。
女性として、見下されていたのだ。
涙が止まらなかった。ひとしきり泣いて、冷静になれた私は、とりあえず仕事は楽しいし、辞めるのは嫌だと母に伝えた。
母はしばらく悩んだのち、会社の女性の人事担当者に今回の一件を報告しておくように言った。
もし、今後、上司の行為がエスカレートした際、過去の報告履歴が対応に影響してくるから、と。
私の嫌悪に100%共感してくれる人がいる。それだけで少し救われた
母は、冷静だった。次の日、私は女性の人事担当者に、その一件を電話で話した。
幸いにも、彼女は私と同じ感覚を持っており、話を聞いて「キモい、ありえない、完全にセクハラ」と、私以上に激怒してくれた。
そして、匿名で今回の一件を記録に残してくれた。
さらに、私が希望すれば、春の人事で所属変更も検討すると言ってくれた。
私はその言葉を聞いて、泣いてしまった。その人に相談するまで、本当は、心のどこかで「私が過敏なだけなのかな?」と、感じていたからだ。
彼女が私の嫌悪に100%共感してくれたことで、私は少し、救われた。
私は、明日もまた、仕事に行く。いつも通り、上司に挨拶もする。でも、きっと、一生思うだろう。
「彼女のことは、娘のように思っているから」。
年が離れていれば、“家族のように”という言葉が、都合のいい言い訳として通る、今の現状がなくなればいい、と。
私を救った人事担当者のように、全ての人が“相手の同意なく身体に触れることをセクハラである”と認識してくれたらいい、と。
そして、大小問わず、被害にあった人が、それを打ち明けることを“恥ずかしい”と感じない世の中になればいい、と。
私は、心からそう願う。