付き合って3年と5日。
鉄のスコップで、彼の家の窓ガラスを割った。
彼とは喧嘩しても、家族のような恋人のような関係が続くと思っていた
彼に出会ったのは、マッチングアプリ。社会人になり、地元に仲が良い友達が1人もいなくなった私にとって、マッチングアプリは暇つぶしでしかなかった。しかし、会ったこともない人とメッセージや電話を重ねて、合う約束をする感覚が楽しくすぐにのめり込んだ。
彼は、最初に会った1人。その日のうちに体を重ね、流されるまま付き合った。家族にも友達にも正直に言えず、ありきたりな友達の紹介と嘘をついて3年。思ったよりも長く続いた関係。だか、終わりは呆気なかった。
付き合って3年目は、別れやすい。職場の先輩も友達も、そのジンクスを忠告してくれていた。
だが、喧嘩は多くても彼とはこの先、この生温い家族のような恋人のような関係が続いていくと思って疑わなかった。
訳の分からない「苛立ち」を向けられ、悲しみと不安でいっぱいだった
3年目記念日の5日後。その日も、自分の車で彼に会いに行った。夕方、彼の車での何気ない買い物の帰り。
「それでね、ジャージを見に行ってさ」
「…うるさい、話しかけないで」
「え?」
どの会話のどの言葉が、彼を苛つかせたのか今でもわからない。無言の車内で、訳の分からない苛立ちを向けられた悲しみと不安でいっぱいだった。家に着き「帰って、話すことない」と告げられて、家から閉め出された。
私だけがこの日のデートを大切に、楽しみにしていたのかと悲しみが込み上げた。同時に、堪えきれない怒りが衝動的に沸き上がり、近所も気にせずドア越しに「家に入れて欲しい」と叫んだ。何度叫んでも返事がない。
その瞬間、私の中でなにかが弾けて、なにも、考えられなくなった。倉庫から鉄のスコップを取り出し、窓ガラスを割った。部屋に土足で入る。唖然と窓ガラスと私を見ている彼氏を尻目に、自分の車の鍵を持って家に帰った。そのまま、彼に会うことは二度となかった。
溜まっていたものが、弾けたのだと思う。もう全部どうでもよくなって、ふった。
無視する彼と癇癪を起こす私、お互い「幼稚だった」けど似ていた
確かに、1年目に比べ、年々小さな事で喧嘩することが多くなっていた。私も、そして彼も些細なことで、言い合いになることが増えた。だがその度、布団の殻に閉じこもってしまう彼を宥め、泣きながら謝り通すのは私だった。
無視されすぎて、部屋中に牛乳をぶちまけたこともある。本棚の本を片っ端から床に落としたこともあった。そんな姿を見て、彼は私のことを「病気だ」と言った。
今考えれば、病的に彼を愛しすぎていたというより、思い通りにいかないと癇癪を起こすただの赤ちゃんのようだった。それでも、日が経てばいつも通りになれた。いつのまにか忘れてしまう。無視する彼と癇癪を起こす私、お互い幼稚だったけど似ていた。でも、似ていたから、成長することも互いにできなかった。
彼からの最後のメッセージは、紙に書かれた「3年間本当にごめんね」。それを見て、この3年は彼にとって謝罪で終わってしまうものだったのかと、膝から崩れ落ちる感覚だった。
別れて2年経った今も、同じ形で自分の引き出しに、残っている。そして、今もまだ、3年目のジンクスが私に絡み付いて離れない。