金魚のように口がパクパクして、何も話せず、涙ばかりが溢れ出た。自分から言い出したはずなのに、後悔とは違う、何の涙か分からない涙が次から次へと出てくる。
有楽町線に向かう途中、涙で前が見えなくて、何でこんな状態で会社に行かなくてはいけないのかと呪いつつ、会社にでも行かないと涙を止める手段が見当たらなかった。
私が振るなんて、1度だって想像できなかった。もし2人に別れがあるのならば、振られる以外にないと思っていた。それくらい、だいすきでだいすきで、心から愛していた。思えば、私にとっての初恋は彼で、初めて心から愛した人だった。
変わり始めたのは、穏やかに5年が過ぎた夏だった
大学の入学式、桜舞い散るキャンパスで出会い、2週間後には付き合った。 顔がタイプで、その上とても紳士で優しい人だった。
付き合ってからの毎日は本当に幸せで、自他共に認める一途な恋で、彼がいなくなるなんてことは想像すらしたことがなかった。
変わり始めたのは、穏やかに5年が過ぎた夏だった。
彼が会社を辞め、次の仕事に選んだのが、転勤のある国家公務員という職だった。心から応援し、1年は勉強のため、図書館がデート場所となった。収入がなくなった彼に合わせて夕飯はチェーン店が増え、旅行もその年は行かなかった。それでも、彼を支えることが幸せで、頑張る彼を応援できるのが自分で良かったと思っていた。そして、彼は本当に頑張って、試験一発合格で、憧れの職についた。泣いて喜んだその年から、大阪と東京でも遠距離が始まったのだ。
彼に何を話せばいいのか、分からなくなった
その頃、私は社会人3年目。仕事の悩みも増えるわりに後輩もできて、新卒気分というわけにもいかず、切羽詰まった毎日だった。 一方の彼は再度の新社会人。しかも新しい寮生活に憧れの職業。もうそれはそれは楽しそうだった。 そんな彼に、話すことが、だんだんとなくなっていった。彼に何を話せばいいのか、分からなくなっていっていた。
そしてもう1つ。転勤族の彼についていくイメージが、私にはどうしてもつかなかった。今の会社で築いたもの、キャリア、未来。それと、彼との生活を考えたときに、どうしても決めきれなかった。
どんなに好きでも、それ以上の未来を彼とは描けなかった
別れよう、と決めたクリスマス。私は彼とキスをしたときに、ああ、もう駄目だ。と直感した。あんなに好きだったのに、他人のようで、ここまで自分の心が離れてしまったことに、悲しくなった。私はあんなに好きな人でも、心がなくなってしまうらしい。驚いた。
遠距離恋愛になる前に、プロポーズまでしてくれたのに、その指輪をつける気にはどうしてもなれなった。結婚と彼はあまりにも離れていた。
あと3年あったなら、私は彼と結婚していたかもしれない。もう3年あったなら、会社を辞めてついていったかもしれない。それでもあのときは出来なかった。
どんなに好きでも、それ以上の未来を彼とは描けなかった。
タイミングと言えばそれまでだけれど、好きだった人を嫌いなるくらいならば、好きのままで別れたかった。
振った理由は好きだったから。
7年間の初恋は私にとっての宝物だった。