高校2年生の私は、真っ青な果実だった。自分のことばかり考えて、相手のことを想うということの意味を知らなかった。手に触れるだけで、キスをすることが幸せで、先のことなんて考えていなかった。その瞬間幸せであることを願っていたのだ。
憧れの人と同じ想いで過ごす日々。自分も少し大人になれた気がした
1歳年上の彼は、同じ部活の部長だった。第一印象は、優しそうな人。その印象は変わることなく、いつしか憧れの存在になっていた。同じ時間を重ねるうちに仲良くなって、連絡を取り合うようになって、相談をも受けるようになった。
付き合い始めたあの日は、太陽の照らす季節だった。好きだと言った声も、胸の厚みも、1歳分、ドキドキした。1歳分、壁も感じた。私は交際を続けて1年経つまで、敬語をやめられなかった。彼はずっと、寂しそうだった。頑張って同じ言葉を交わそうとする私を、かわいいとも言ってくれた。穏やかな彼と一緒にいることで、自分も穏やかな人間になれた気がした。少しだけ大人になれた気がした。
転機は、彼の大学への進学だった。霜が降りてマフラーが必要な季節には、遠く離れた地に行くかもしれないと告げられていた。その時私は、その距離が、時間が、どれほど遠く、無限であるか気づかなかった。ただ、同じ気持ちでいられたら大丈夫だと、豪語していた。
卒業式に交わした最後のキス。同じ想いから別の道へ
彼の卒業式に、私は彼に花束を渡し、彼は私に第二ボタンをくれた。同じ月の私の誕生日に、彼はこの地を離れた。私は泣いた。雨の中傘を差し、1つのそれの中で私たちはキスをした。それが、彼との最後のキスだった。
その日から数ヶ月が経ち、汗で制服がくっついてしまう季節。私は学校の教室で携帯片手に、彼に別れを告げた。じわりじわりと重なる彼への不満。彼の優しすぎる性格に、疲れてしまった。逃げてしまった。距離と彼の優しさに甘えて、電話も、直接会うこともせず、ほとんど一方的に別れようと伝えた。遠距離になって彼と会ったのはたった1度だけだった。それほど距離は遠く、次第に私の心を冷やしていった。彼は、それを受け入れてくれた。最後まで彼は優しかった。私は、自分の幸せと、気の楽な道を選んだのに。
未熟な私は、優しさが疲れになっていた。贅沢なことだ。相手を優先させることが、どれほど苦しく、大変なのかも、考えていなかった。今になって、自分の馬鹿げた選択に、思わず笑ってしまう。
憧れの人から恋人になってくれたあなたへ、今伝えたい
1つ年上のあなたへ。私は、少し後悔しています。あの時より少し赤みを帯びた私は、なぜあなたと別れたのかと自分に問いかけます。あなたほど優しくて優しくて、まっすぐな人は、きっとこの先現れないことを、青い実の私は知りませんでした。たくさん愛情をくれたのに、たくさん傷つけてしまいました。謝りたい気持ちと、感謝の気持ちが半分ずつ、私の心に宿ります。
なぜ、今この話をするのか。この春大学4年生になる私に、つい先日、恋人ができました。あなたみたいに甘えるのが上手で、あなたみたいにちょっと口下手で、あなたより背が高くてあなたより子供っぽい人です。知り合って1ヶ月足らずですが、彼は私を大切にしてくれると思います。あなたは今、大切な人はいますか?体内に流し込むことができるようになったアルコールに身を任せ、何度あなたのSNSにたどり着いたか知らないでしょう。何度連絡をしようとしたか、今までもこれからも知らないでしょう。あなたが髪を金色に染めていたこと、タバコを吸うようになったこと、私は知っています。
私は、あなたに幸せになって欲しい。同じ地を離れた次の日の電話で、一緒に泣いたあの日を忘れません。いつかこの文章を読んで、あの不器量な元カノだと気づいてくれた時には、連絡をください。幸せだと、私のことなんかこれっぽっちも気にしていないと、笑ってください。