「本当はあのときプロポーズするつもりだったし、指輪も用意してた」

彼は、電話越しにそんなことを言った。そして泣きながら別れ話をしてきた。ふられた理由はよくわからなかった。

出会って色々な奇跡や偶然が重なって仲良くなり、自然と好きになった

そんな彼は遠く離れた外国で「前から約束してた結婚しないといけない女性」と結婚するらしい。私たちは少し前に日本と海外の遠距離恋愛を始めたばかりだった。こんな映画みたいな展開ってある?て少し冷静になっていた私がいた。

思い出を辿ると、彼と出会ってからはずっと映画みたいな時間を過ごしてきた。出会って色々な奇跡や偶然が重なって仲良くなって、自然と好きになってしまっていた。彼が連れて行ってくれる場所は近い場所も遠い場所もいつもキラキラしていた。どこに行っても何をしてもいつも笑っていたし幸せだった。

夜の映画館に2人しかいなくて、2人だけの世界みたいてぼんやり思ったりした。

彼から別れ話を告げられる結末が待っているなら、あの奇跡や偶然はなんだったのだろうて考えていた。出会ったばかりの頃はそんなこと望んでいなかったし、傷つくことがわかっていたらそんな奇跡や偶然なんていらなかった。

別れた後も続いた「切なく楽しい遠距離恋愛ごっこ」の終わりは突然に

別れてからも、彼が結婚するまでは映画みたいな「切なく楽しい遠距離恋愛ごっこ」を続けていた。同じ時間に同じ本を読んで、同じ映画を観て、同じ物を食べて、笑って喋って寝て、時差を気にせず一緒にいる時間を過ごしてた。

彼からはよく贈り物が届いた。お洒落な折り畳み傘は「雨が降っても笑っていられるように」、素敵な花束は「在宅勤務でも気が紛れるように」、大量のスポーツ飲料は「早く体調が良くなるように」離れていてもすぐ側にいるみたいな彼に、他の女性と結婚するような素振りはまったくなかった。

でも離れなければいけない瞬間は突然きてしまった。「ずっと大切な人だから変わらず友達でいて欲しい」て言ってきた彼を最後にふったのは私だった。「他に好きな人ができたからもう連絡はとれない」て嘘をついた。精一杯の仕返しだった。ふった理由は本当に何もなかった。

彼のいない世界に慣れてきても、朝起きて、夜寝る前は想ってしまう

彼が憎い気持ちと彼の幸せを願う気持ちが半々くらいあって、いつも息をすることが苦しかった。寝ても覚めても心のどこかに彼がいて、油断すると夢の中で笑わせてきて、私は毎朝起きて泣いてた。彼がいないと私の世界は完成しないってずっと思ってた。

時間がたっていまは少し息ができるようになった。彼の登場する回数も減ってきた。仕事も忙しくて彼のことを考えなくても良い時間が増えて安心していた。それでもまだ朝起きて、夜寝る前は彼のことを想ってしまう。仕事帰りに月を見ると何故か彼も同じ月を見てるんじゃないかって想像して、そうであって欲しいと願ったりする。

でも、まだ彼の幸せを心から願うことは難しい。それでも、たぶん、もう、会えないから、あの国で海を見ながら笑っていることを、意地をはって願ったりする時もある。