私自身はまだ人生経験が浅いので、誰かをふった経験もふられた経験もまだない。
しかし、聞いたことのあるふられた話なら、まだ冬の寒さが残るこの時期にふと思い出しては考え込んでしまうエピソードがある。これは、高校時代の同級生の体験談だ。
Aちゃんが好きだった男の子は、同じクラスの男の子が好きだった
私は、関東圏内の女子高に通っていた。偏差値自体は悪くないのだが、知名度が抜群に低いため、生徒が少ないということもあってのびのびとした学校だった。
当時、高校3年生だった私は、大学受験に向けて友達と一緒に空き教室で、居残り勉強をしていることが多かった。その仲間の一人に獣医学部を目指していたAちゃんという子がいた。Aちゃんは女子高の中には珍しいリケジョというやつだったので、理系科目の勉強を教えてもらったり、たわいもない会話をしたりしていた。
そんな彼女といつものように空き教室で勉強しつつ、合間に休憩していると、何故か中学時代に好きだった子の話になった。私とAちゃん以外の子達も、思い出話に花を咲かせる。そんな中、Aちゃんの話はかなり衝撃的だった。
「いやー、私、告白する前に振られちゃったんだよねー……。その子、男の子が好きだったみたいだから」
「え? 嘘でしょ?」と、私は思わず聞き返してしまった。Aちゃんは続けて「うん。それがさー…、私、修学旅行の時にその子に告白しようと思って準備してたのね…。班行動とかも同じでさ。たまたま移動中、隣に好きな子が来たから、思わず『○○君、好きな子いるの?』って聞いたんだよね。そしたら返って来た返答が『うん、いるよ。××君』って男の名前が出てきて(笑)。しかも、同じクラスの男子っていう……。ふられたようなものだから、告白するのもやめちゃった」と苦笑いしながら話してくれた。
私は改めて思った。恋愛対象が、必ず「異性」ではないということ
彼女は過ぎた思い出話として語ってくれたが、この話を聞いてまず思ったのは、同じ教室にいる男の子でも、恋愛対象が女の子とは限らないということだ。もしかすると、私が通っている大学の中、あるいは職場にも周囲には隠しているが、恋愛対象が異性ではないという人がいるということを改めて思い知らされた。
そう考えると、つい自分に置き換えて考えてしまう。私の場合、中学時代に告白はしなかったものの、同じクラスに気になっていた人がいた。Aちゃんと同じく、修学旅行の班も同じ人だった。Aちゃんの話のように、移動中に隣に座っていた時間もあった。そのため、Aちゃんの体験談が、余計に自分の事のように感じられた。
「好きな人いるの?」と尋ねて、その人から恋愛対象が違うからごめんなさいと暗に振られたら、多分頭をいきなりぶん殴られたぐらいの衝撃は、どうしても避けられないと思うのだ。その後、事実を受け入れられるまで、一人で悶々としてしまうだろう。
そして次に思ったのは、Aちゃんをふった男の子の方も、恋が報われる可能性は極めて低いと思うのだ。中学生という思春期真っ只中の時期、かつ同性を好きになっているという事実から、想いを伝えることは難しいと考える。
Aちゃんが好きになった男の子は、自分に「正直」に生きていた
でも、Aちゃんが好きになった男の子は、自分に正直に生きているのだなと思う。あくまでも推測だが、Aちゃんが自分に好意を寄せていることを知っていて、それでも自分は同性の子が好きということを、Aちゃんになら告白出来たのではないかと思うのだ。
Aちゃんはふられたかもしれないが、ふった男の子は、Aちゃんに申し訳ない気持ちと、自分の想いを代わりに聞いてもらえたことで、気持ちの整理がついたのではないかと私は思う。
もう数年以上前に聞いたエピソードだが、どうしてだか未だに忘れることが出来ない。ふられても報われない・ふっても報われないと考えてしまうからだろうか。Aちゃんがふられた男の子も、今は幸せになっているといいなあ…。