私達の意見がようやく一致したのは、別れ話の時だった。フったのもフラれたのも同時だった。

「ちゃんと彼氏を作ってセフレと縁を切ろう」と思って始めたアプリ

セフレに振り回されて3年、アラサーと呼ばれる年齢になった。学生時代の友人との会話でも会社の同期との飲み会でも、結婚の噂や報告を耳にすることが急激に増えた。焦っていた。ちゃんんとした“彼氏”を作って、セフレとの関係を切ろう。

そこで始めたのが、マッチングアプリ。3人の人と食事にいった。その中で最初に告白してきたのが、Mだった。

最初から違和感はあった。初めてのデートは、Mの愛車で彼の行きつけのお好み焼き屋さんに行った。彼は車の整備士をしていて、運転には自信があるようだった。熱っぽく「クラッチが…ブレーキが…」と語り始める彼。つまらない。私の親も車関係の仕事をしていたから、なんとなく理解できるものの興味が湧かない。

さらに、彼の運転は荒い。愛車の排気音もうるさい。クラクションを鳴らしながら、割り込み運転を繰り返している。彼は「運転下手くそなら、車運転するなよ」と言っていた。目的地に着く頃には、私はぐったりとしてしまった。しかし、何も言えなかった。嫌われたくなかった。彼氏が欲しかったから。

彼は、私には優しかった。毎日の連絡は欠かさないし、お互いの住んでいる場所は車で1時間ほど距離があったが、休みの日には家に来てくれた。デート中に寒そうにしていると、お手洗いに行っている間にカイロを買っておいてくれた。毎日のように「愛してる」と言ってくれた。多分、私も好きになれていた。なんなら、彼に依存気味になっていた。

最初から感じていた彼への違和感は「嫌い」という感情に変っていった

しかし、違和感は“嫌い”に変わり、不満が増えていった。ほぼ毎週末、彼が来るから一人でやりたい事ができない。一度「無理して毎週末来なくていいよ」と伝えたら、「好きで来てるだけだから」と言われた。失敗。

なのに私の家に来ると、携帯ゲームばかりしている。私は「ゲーム嫌いだ」と言ったのに。食事中も会話中もスマホで漫画を読んでる。外でのデートも減った。「お金がないから」と言うが、アップルウォッチは買った。

喧嘩が増えた。会うたびに繰り返される言い争い。「俺たち合わないと思わない?」と彼から言われてしまった。

前日、別れ話をしようと決意していたのに。私は頷くしかなかった。涙が少し出た。彼の“好きで来ている”は、いつの間にか“来てあげてる”に変わっていた。

別れ話をした翌週末、残った彼の荷物を全て送った。貰ったプレゼントも送り返した。あっという間に彼の影を消した。

私は恋愛をしていたんじゃない。そもそも「好き」ってなんだろう?

あれから彼から連絡はないし、私から連絡することもない。生活圏も違うから、会うこともない。別れて半年しか経っていないのに、付き合っていたのが嘘みたいだ。

私がしていたのは、“恋愛”ではなかった。彼と週末会うことを楽しみにしていたし、電話を心待ちにしていた。でも、それは“好きだから”ではなく、気兼ねなく寄りかかれる“構ってくれる人”を見つけただけだった。

彼はそれに気がついたのだろう。そして、鬱陶しくなった。私は構ってくれなくなったからフった。

今、私には新しい彼氏がいる。彼は仕事柄、大変忙しく会えるのは月に1度。返信がない日もザラだ。Mの時とは、真逆な付き合い方だ。私から連絡するのも、用事がある時だけ。

今の彼氏のことは、本当に好きなのだろうか。そもそも好きとはなんだろう。30歳を目前に、私はまだまだ迷宮の中にいる。