高校の頃から片想いしていた相手に、5年経ってから告白した。ちなみに、私は女性で相手も女性。

私はバイセクシャルで、男性も女性も好きになる。こればかりは、自分で「よし!この人を好きになろう!」と決められることではないので仕方がない。

告白したけど、彼女にとって私は「恋愛対象」じゃなかった…?

彼女は部活の後輩で、高校の頃からわりと仲が良かった。高校を卒業してからも連絡はわりと取っていたし、長期休みで帰省したときには、一緒に飲みに行ったりもしていた。そんな相手に突然、しかも5年も経ってからいきなり「好きだ」と伝えた。

「高校の頃好きだったんだよね。ていうか、今もなんだけど。やばいよね」とか私が笑いながら言うもんだから、彼女は当然のごとくめちゃめちゃ驚いていた。でも、その驚きの中でも、どう答えるべきか、正解を探っているような印象だった。

彼女は、良いとも悪いとも言わなかった。「ありがとうございます」「えーマジすか…」をずっと行き来していた。

帰り道を歩きながら「でも私、先輩のこと好きですよ」と彼女は言った。もちろん人として、先輩として。それは、ちゃんとわかっていた。私は変な空気にしたくなくて「うん、知ってるー」と軽い調子で答えた。言ったあとで、勘違いさせるかもしれないと気になったのか、彼女は最後にこう付け足した。

「そういう対象では見れないけど…」その言葉が私にとって、告白の答えだった。

「…うん。だろうね」少しの沈黙の後、私はそう答えた。最初からわかっていても、それ以上うまく返せなかった。

逸らした視線、声のトーン、話す前の沈黙。人の本音は、言葉に出ない。そのときの私は、きっと世界で一番わかりやすい顔をしていて、100人いれば99人が「あー、絶対傷ついてるよ…」と思ったはず。でも、私が好きになったのは、そのたった1人の例外に当てはまるような子だった。

思えば彼女は昔から、人の言葉や仕草の裏にある本音を想像する能力が、恐ろしく欠落していた。よくいえば素直、悪くいえば、“人に興味がない”。相手が話した言葉をそのまま受け取り、それ以上噛み砕いて深く考えることはない。

例えるなら、彼女は投げられたボールをそのまま投げ返す。そのボールが野球ボールなのかテニスボールなのか、はたまたソフトボールなのか、そんなことは気にも留めない。「キャッチボールなんだから当然野球ボールっしょ?」みたいな。

普段なら少しくらい察してほしいところだけど、この日は妙に彼女のそんな部分に救われていた。心配されたくなかったし、傷ついていることに気づいてほしくなかった。

別れ際、彼女は言った。「でも、先輩とは一生の付き合いでいたい」と。そのことを素直に嬉しいと思った。もし、変わらずその気持ちでいてくれるなら、今度はちゃんと友達として、先輩として、ずっと仲良くしたいとも思った。

性別の壁くらい超えていいと思ってもらえる程、努力できるたのかも

あれから1年半が経った。5年間しまっておいた感情は、あの告白以降、ずっと執着していたのが嘘だったようにキレイに片付き、思い出として本来あるべき場所におさまった。

けれど、この間なぜか急に思い出した。あの頃は、恋愛対象として見られないと言われ「そうりゃそうだ。だって女だもん」と素直に思ったけど、本当にそうだったんだろうか。

別に、私の顔が良くてスタイルも良くて、性格も良くて、お金があって包容力もあって、毎日一緒にいるだけで、お腹がよじれるくらい笑わせてくれる最高の人間だったら、女とか性別とか、そんなの関係なく好きになってもらえたんじゃないだろうか。付き合うとかパートナーになるとか、そういう道を選ぶかどうかは別として。要は、ただ単に好きになってもらえるほどの魅力が、自分にはなかっただけ。

もちろん、いくら魅力的だからといって、同性同士だという壁がなくなるわけじゃない。でもそれを、そんな性別の壁くらい超えてもいいと思ってもらえるくらい、もっと努力できることがあったんじゃないかなーなんて、考えたりした。

別に未練は全然ないけど、もしかしたら自分にできることは、もっともっとたくさんあったんじゃないかなって。

異性同士でも同性同士でも、最後は結局、人対人。私が振られたのは、人としての魅力がまだまだ足りていなかったからだったのかもしれない。けど、告白したことや過去の自分が選んだ言葉、行動に後悔は一つもないと自信を持って言えるから、やっぱりあれでよかったんだと思う。

その告白から1年経って、この間その子と電話で話した。あれ以降、私たちは普通の“先輩と後輩”として関係を続けている。

「人に興味がない」と言った彼女の言葉が、今の私にはよくわかる。私は割と恋愛体質だから、世の中の人間は“好きな人とそれ以外の人”にしか分類できない。ひどい話だけど。私が自主的に興味を持てる人のキャパシティは、常にたった一人分しかなくて、そしてあれ以降その席はずっと空っぽのままだ。

そんな主旨の話をしたら、途中までうんうんと聞いていた彼女が「ん?どういうこと?」と声をひそめた。

言葉の意味を理解しようとする彼女が新鮮で、ちょっとだけ嬉しかった

終わった恋の話を、その好きだった相手とできるのはすごく楽しい。告白を断った相手からしたら、やっぱり少なからず気まずい気持ちがあるんだろう。これまでよりほんの少し、声のトーンや話すときの間、言葉の節々から、私が放つ言葉の意味を理解しようとするような、そんな姿勢を感じた。

それがなんだか新鮮で、ちょっとだけ嬉しかった。それがただの罪悪感からくる、ほんの短い間の気まぐれだったとしても。

私は本心、わりと性格が悪いというか意地が悪いので「せっかくだからもっと困れ困れ!はっはっは!」と内心思っていた。

とはいえ、意図的に人を困らせるのは趣味じゃないし、本気で返す言葉に困っている様子だったから、そろそろ解放してあげようと思い、口を開いた。私は笑って「なんでもないよ」と彼女に言う。

長い片想いが、ようやく終わったような気がした。