我が家の家訓は働かざる者食うべからずで、共働きしていた母親からは小さい時から家の手伝いをするよう育てられてきた。
学校からは寄り道せず帰って洗濯物を干す、畳む、食器を洗う、休みの日には早く起きて友達と遊ぶ事よりもお風呂掃除や掃除機をかけるetc...
わたしが4歳の時に妹が生まれてからは、お姉ちゃんなんだからという固定文が頭につくようになって、お姉ちゃんなんだからやりなさいとか食べ物は分けなさいとか面倒見なさいとか。
今思えば生活をしていて困ることはないし、基本的には何でも自分でできる。母親にはそうなるように育ててくれてありがとうと言いたい。
だが当時のわたしは学校の帰りに友達と寄り道して駄菓子屋に行ってみたかったし、休みの日には友達の家に遊びに行ったりしたかったのだった。
思い返すといつもポジションはお母さんで、頼りにされることは多かった。

彼は土下座して、許して欲しいと言った

そうやって育ってきて彼に出会ったのは21歳の時だった。一緒にいると楽しくてどこか落ち着けて、自分のことや家族のこと、何でも話すことが出来た。それまでにも好きになったり付き合ったりした人はいたけど、明らかに彼は特別だった。距離を縮めるのに時間はかからなかったし、お互いに同じだけの気持ちでいると思っていた。
程なくして彼の家に通うようになり、掃除や洗濯をしたり料理を作って帰りを待ったり幸せを噛み締めては浮足立っていた。
その頃は自分の家でもない家を一生懸命磨いて、せっせと料理を作り、山程ある嫌いな食べ物をどうやったら克服してもらえるか工夫するのも不思議に思わなかった。

好きじゃないというディズニーにだって一緒に行ってくれた次の日、わたしの中の何かが警報を鳴らした。
朝起きるとすぐに彼が携帯を触って誰かにメッセージを送った、時間は朝の6時だった。おかしい、そんな時間にわたしに返事が来たことはないのに、、、
こういう時の女の勘というやつは本当に鋭く尖っていて、自分は絶対にしないだろうと思っていた行動へと後押しする。
わたしは迷いなく彼の携帯を手に取ってLINEを開き、確信した。わたしではない女の子とやり取りをしている。
わたしの中ではその女の子とのやり取り自体が裏切りで許しがたく、すぐに別れを切り出した。本当に身が引き裂かれる思いをしているわたしに、彼は土下座して、許して欲しいと言った。そんな彼を前にわたしは許すことにしたのだった。

数々の女の子とのやり取り、風俗のポイントカード

それから怪しいと思いながらも好きな気持ちを捨てきれず付き合って3年目の夏、わたし達は一緒に住むことを決めた。決めたというよりわたしが彼にこの先どうするのかを迫った末に決まった同棲だった。
一緒に住めば見える景色が変わるとはよく言ったもので、家に通っていた頃には見えなかった彼とわたしの「合わない部分」が浮き彫りになった。
不思議なのは嫌な雰囲気になっても、喧嘩は一度もしたことがなかった。
合わない部分があってもお互いに自分の中で消化しながら過ごせていたと思う。掃除や洗濯など大部分の家事はわたしがやっていたけれど、仕事の帰りが遅いわたしに代わっていつも食事を作ってくれた。
そんな毎日にまたもや暗雲は立ち込める。

ある日曜日のこと、わたしが夜勤で出勤なのに対し彼は休みで出かけて行った。そこでまたわたしの中の警報が鳴る。彼の鞄を漁ると出てきたのは精力剤だった。結局のところは風俗に行っていたと言われ今度は雷に打たれたような衝撃。そして別れ話をするもまたもや押し切られてしまった。
それから一緒に住み始めて1年、付き合って4年経った時も警報が鳴り、再度彼の携帯を見れば数々の女の子とのやり取りや財布からは風俗のポイントカードも見つけた。

彼を断ち切れなかったのはわたしの弱さでもある

ここまで来てもわたしは悲しくてショックで泣くのだ。こんなにも悲しいことがあるかというくらいに声をあげて泣いた。今度ばかりはLINEで話をするわけにはいかず、直接話をした。わたしが教えるシフトに合わせて女の子と約束をし、時には風俗へ通いやりたい放題であったと。今度こそ本当に別れなければならないと伝えた矢先に彼は更に驚くべき行動を取る。
わたしに差し出したのはTiffanyの小さい箱、言い放ったのは「結婚しよう」という何ともこの世で一番軽薄な信憑性のない言葉だった。
こんな形でプロポーズされようとは、、、
もちろんお断りさせていただいたし別れると伝えたのだが、気付いた時には新たな家への引っ越しが済んでいた。
ここまで来ると自分に自分で呆れてくる。何故彼を断ち切ることが出来ないのか。何故彼はわたしを傷付けるのか。

年が明けて2021年。何があったかわたしはついに行動を起こす。彼に別れを告げ、家を出ていくことを決めた。ここまで来るのに6年かかった。
流石にわたしの彼に対する態度も冷めていたようで、別れを告げても泣きつかれたりすることはなく、意外にすんなりと彼も別れることを受け入れた。
同時に4月から転職し、心身ともに新しい環境で過ごしていく。

彼のいない人生を歩んでいく、何とも不思議で人との縁は意外とあっけないものなんだという気持ちだ。同時にやっと自由になれる、やっと傷付かなくていいんだという安堵。
彼を断ち切れなかったのはわたしの弱さでもある。泣きついて土下座してくる彼よりも変わることを恐れていたのはわたしなのかもしれない。

今はそんな弱い自分も彼を好きでいた自分も結果的に彼を許せなかった自分も、全部を抱き締めて前に進んでいく。