その日は、最高の日曜日になるはずだった。朝10時頃までゆっくり寝て、窓を開けて太陽の光を浴び、すっきりした頭で大学のレポートを一気に書き上げる。ご褒美に大好きな森永のムーンライトを食べながら、最近はまっている芸人のYouTubeを観る。大笑い。

彼と一緒に散歩して、焼肉食べて、愛し合って「最高に幸せな日曜日」

午後4時、彼氏のお誘いでお散歩デート。2人とも昼ご飯をそんなに食べていなかったせいで早々にお腹が空き、双方の確固たる同意の下、彼氏の家から歩いて行けるところにある焼肉屋へ、午後5時の開店と同時に向かう。

いつもは食べ放題にするところを今日は単品注文にしたが、ご飯メニューがなかなかに美味しくて、何より、もったいないからたくさん食べなければ、という食べ放題特有のプレッシャーに追われることなく、彼氏と談笑しながら肉をゆっくりと味わえた。2人で2,800円。「1,400円払うよ」と言っても、「僕は会社員だから」と400円ご馳走になる。

胃にちょうど収まりきる心地良い満腹感のまま、近くにあるカラオケに行こうという流れになったが、左下奥歯にさっき食べた牛カルビの筋が挟まったまま、取れずに爪楊枝で格闘していた私を見て、「一度僕の家に戻って歯磨きしよう」と彼氏が提案してきた。私は「別にいいからカラオケ行こうよ」と言ったが、結局一旦帰った。

歯磨きを済ませると惰性で布団に倒れこみ、ハグをしながら「焼肉美味しかったね」と笑い合い、キスをしてまたハグをする。何度目かのハグで、私の背に回された彼の腕にひときわ力が込められ、深く抱き寄せられる。そうして、始まる私たちだけの夜の時間。1週間ぶりだったそれはとてもとても幸せなもので、この最高の日曜日を締めるにこれ以上ないくらい相応しいひとときであった。

シャワーを浴びていると、彼が「ヒトカラ行くかも」と言ってきた

先にシャワーを浴びていた彼氏と交代で浴室に入る。お湯を熱めに調節し、いざ浴びようとしたところに、浴室のすりガラスの向こう側から彼氏の声が聞こえた。「もうちょっとしたらヒトカラ（一人カラオケ）行くかも」。

身体の熱が一気に冷めていった。温かい浴室にいるはずなのに、シャワーは熱々のはずなのに、まるで冷や水を浴びせられたように心身の芯まで凍えた。私は口調まで冷たくなるのをなんとか堪えながら、「別にいいけど」と返した。早く温めなおしたくて、シャワーのレバーをさらにひねる。彼氏の遠ざかる足音は、シャワーの水音がかき消した。

その後は、呆然と身体を洗っていた。事後の疲労感に、彼氏のデリカシーの無さが追い打ちをかけて、私にはカラオケに行く余裕はおろか、もう一度おしゃれ着を着る気力ももうなかった。

浴室から出ると、彼氏はちゃんとお出かけ用の服に着替えていた。その10分後にはもう彼はカラオケに向かい、私は一抹の理性で「行ってらっしゃい」を言った。

最高の日曜日を、二人で終えたかっただけなのに…ヒトカラ行くなよ！

そしてその直後、このエッセイを書き始めた。彼氏が返ってくるまでの2時間30分の間、私はひたすら最高に終わるはずだった日曜日のことを書き続けていた。書いているうちに、どんどん自分の本心がむき出しになっていって、文章の中で彼氏の胸ぐらを掴んで喚き始めていた。

「なんでこのタイミングでヒトカラに行くとか言うんだよ！！今は違うだろ！！」「また改めて一緒にカラオケ行けばいいだろ！！」「そもそもカラオケの前にセックスするなよ！！」

怒りの矛先は彼氏だけでなく、私自身にも向けられる。「なんで『別にいいけど』とか言うんだよ！！『ヒトカラ行かないで』って言えよ！！」「『一緒に家でのんびりしよう』って言えばいいだろ！！」「そもそもカラオケの前にセックスするなよ！！」「私はこの最高の日曜日を……」

玄関の方からガチャリと響く音。文章の中で彼氏と喧嘩しているうちにいつの間にか時が過ぎ、彼氏が帰ってきた。私はパソコンを閉じ、穏やかな笑顔と声で、「おかえり」と出迎えた。その後は、二人で歯磨きなりスキンケアなり、そそくさと寝る準備を済ませ、床に就く。私はなかなか眠れなかったのに、彼氏は布団に入って一瞬で寝息を立てていた。

「私はこの最高の日曜日を、二人で終えたかっただけなのに」さっきの喧嘩中に言い損ねた言葉で、その幸せそうに寝てやがる顔を叩き起こしてやりたかったが、やめた。そっと彼氏と反対方向に寝返りを打って、呟く。「400円奢られておいて、よかったよ」。