あなたにたくさん謝りたい。

当時付き合っていた彼氏に放置される日々を送っていた私は、出会い系アプリに手を出した。寂しさを、埋めたかった、ただそれだけ。
いろんなアプリがあるけれど、私がダウンロードしたのは恋人を真剣に募集するようなアプリじゃない。ワンナイトとか、セフレとか、そういうやつ。でも、初めてアプリに手を出した私の心臓は落ち着かなかった。登録画面からドキドキする。一応彼氏がいる身分だ。自分はこんな最低なやつになっちゃったのか、とも思った。ただ、早く寂しさを埋めたくてその一心でそそくさと登録を済ませる。

アプリで出会った人なのに、ここまで優しいなんて

今日会える人いませんか、と呟くと一斉にメッセージが入る。
「迎えに行くよ」「どこ住み?」「ホテル行こ」「いじめられたい?」
ほぼこんな内容。あぁ、やっぱり体目的か。分かってはいたけど、なんとなく心は晴れないままだった。何十人、何百人とくるメッセージの中に、私より一つ年下の子を見つけた。「よかったら、晩ご飯行きませんか」
あんなかんじのメッセージばっかりだったから、なんだかこれだけで惹かれた。
所詮アプリ。みんな下心持ってるのは分かってる。分かってるよ。もういいか、どうにでもなれ、と、返信した。「私でよければお願いします」

顔写真の交換をそそくさと済ませて、待ち合わせ場所へ向かう。
写真を見た感想はかっこよすぎず、とても無難。こちらが緊張しすぎることも無さそう。本当にそれだけで決めた。我ながらとても病んでたんだな‥と思う。
しかし私はとんでもない失態を起こした。待ち合わせ場所を間違えたのだ。
予定時刻はもう過ぎている。急いで電話した。すると彼は、そこまで迎えに行くから、そこにいて!と言う。怒られるかと思ったし、帰られるかと思った。
彼氏にはそういう扱いをされてたから。アプリで出会った人なのに、ここまで優しい人がいるんだと、この時点でびっくりしていた。

その笑顔はずるい。こんなにドキドキするものなの?

少し走った様子の彼が私の目の前に現れる。写真とは違ってとてもかわいらしい。背も高い。一気に緊張が高まった。私は目も合わせられないまま、お店へ入った。
人見知りな私のためにたくさん喋ってくれた年下の彼。
「これがおいしいんだよ、はい、食べてみて!」
「なにか飲みますか?」
敬語とタメ語が混ざってるのがかわいいな、と思ってつい笑ってしまった。
その時、「先輩なんで一回もこっちみてくれないんですか?」と、私の顔を覗き込まれた。
ひとつ年上なのに私には目を合わせる余裕もなかった。彼氏がいて、寂しさを埋めるためにあなたと会ったのに。そんな私に、彼氏からもらったことのない優しさをくれた。あと、その笑顔はずるいし、覗き込まないでほしい。
勢いで始めたアプリ。こんなにドキドキするものなのか?!と焦る。

あなたのことをもっと知りたいと思ってしまってごめん

その後も沢山会話した。お店の外は雪が積もって寒かった。
お酒の入った私は少しだけ積極的になれる。私からホテルに誘った。慣れない手つきで部屋を選んでそのまま勢いでベッドへ。優しかった。ただただ、優しく私に触れた。彼氏から欲しいものを、一晩で彼は私にくれたのだった。
行為中、「寂しかったの?」と聞かれた。正直気持ちよくてそれどころじゃなかったが、ふと我に帰った。「寂しかった……」そういうと、優しかった彼が少し強引になった。堕ちそう、そう思った。

アプリで出会ったから、本名とか知らなかった。事後一緒にお風呂に入っている時に、名前を聞いた。
一瞬びっくりしていた彼。教えてもらった名前は、アプリで使っている名前と同じだった。
私はその時、全てを悟った。所詮アプリ。あなたの名前はそれじゃないこと知っている。
だって私に見せてきたじゃない、インスタに投稿している写真。そのアカウント名があなたの本名だよね。
本当の名前を知りたいだなんて思ってごめん。困らせちゃってごめん。あなたのことをもっと知りたいと思ってしまってごめん。
あぁ、本当にちょろい女だな。
一晩優しくされてあなたとこれから先一緒にいられたらな、なんて思ってしまった。