昨年11月に募集を開始した「小野美由紀賞」。「『ふつう』を超えてゆけ」のテーマには200件以上の応募がありました。4月15日にオンラインイベントとして、特別審査員の小野さんを招き講評会を開催し、大賞と次点のエッセイについて語っていただきました。このイベントで発表された大賞・次点の受賞理由をお届けします。

小野美由紀さんの総評

テーマのとらえ方や切り口の幅広い、多数の作品の応募がありました。全て拝読させていただき、そのうえで入選作を選びました。

これからエッセイを書く方たちに考えてほしいこと、それはまず 「Iの話をWeの話」 にすることです。 「私はこんな経験をしました」で終わらず、その経験を読み手と共有するためにはどうしたらいいのか?それを考えて書いて欲しい。

エッセイは単なる「自分語り」ではありません。「自分ごと」を社会と紐付け、読み手に影響を与えるために書くものです。どんな問いを抱えているのか、それをどんな人と共有したいのか。そこまでイメージして書くことで、主張も明確になるし、この書き手についてもっと知りたいと読者に思わせることができます。

そうすることで、自ずと「私にとっての《ふつう》とは何か」という、このテーマにおける作者のものの見方が定義され、作品の輪郭がはっきりしてくるでしょう。 「自分ごと」を「社会ごと」にしてください。選んだ作品たちは、いずれもそれが高いレベルで実現されている作品でした。

詳細は小野さんのnoteで:そのエッセイは「Weの話」になっているか

◆「小野美由紀賞」大賞

母に「彼女と結婚しようと思う」と伝えたい。「女と女は結婚できへんのやないの?」って言うかな

いい意味で裏切られる作品でした。
本人が「ふつうを超えるぞ、超えるぞ」って意気込んでいたところを、相手はもうとっくに超えていた――という話。本人も読者も、社会すらも裏切られて、それが気持ちいい。最後の締め方の、気張りのない感じも、テーマとのギャップがあって素晴らしい。

その場の雰囲気が伝わる細やかな描写も、読み手を引き込みます。場の情景が浮かぶ。
この作品で救われる人もたくさんいるんじゃないかな。

この方は小説書いてらっしゃるのかな。小説的な香りがした。構成もすごくうまい。最後まで余すことなく「読者への配慮を忘れない」至極のエッセイでした。文句なしの大賞です。この方には、書き続けてもらいたいなと思います。

◆「小野美由紀賞」次点

講評イベントで、「超いいね!」となったエッセイを全てご紹介させていただきます。順不同)

私の名字は非常に珍しい。大声でバカにされたり、先生に誤った読み方で数カ月呼ばれたり…

「普通の名字で生まれてきたかった」
今まで何度そう思ってきたのか、もはやわからない。
生まれてきてから今日まで、自分の名字について数えきれないくらい悩んできた。

出だしから「何を書こうとしているのか」が明確に提示されていて、すごく良い。
エッセイも小説も、出だしは大事です。最初の一文で心をつかんで、読みたい気持ちにさせることを意識してください。

「名字が変わっている」ということで悩んでいる人は多くなく、ある種とてもマイナーな悩みですが、このエッセイの素晴らしいところは、「Iの話をWeの話」にする力に長けているところ。どういう経緯でどんな思いをしたかを、具体的なエピソードの積み重ねで丁寧に書けているため、同じ悩みを抱えているわけではない読者にもしっかりと伝わります。

最後の結論も主張がはっきりしていて、読んでいてすっきりとした気持ちにさせられました。

「不倫からの略奪?」。12歳差の私達が結婚する時に見えたこと

もうこれは、「共感いいね」です(笑)。この方の切実な叫びが伝わる。私も年上と付き合ってた時は感じていたなあ。こういうこと言われると嫌なんだよね。この人はその嫌さを書くのがうまい。そもそも文章がうまいんですよね。

「父親との軋轢」というドラマをもり立てるストーリーテリングの妙もある。

[ふつう]を超えるために必要だったのは、相手の[ふつう]の呪いに迎合することでも、一方の[ふつう]を正解にしてもう一方の[ふつう]を不正解にすることでもなく、それぞれの[ふつう]を認めた上で丁寧に擦り合わせることだった。

ここは素直にそうだなと、読んでいて説得されました。
「『ふつう』を超えてゆけ」というテーマゆえに、「私はふつうを超えました!私は私でいいんだ!」という「型」にハマった応募作が多い中で、テーマすらも超え、私たちはこうだった、という話を書いてくれている。超いいねです!!

スクール水着へのニヤけ顔、職員室に直訴。その時、体育教師は

文章としての完成度が高い。テーマも社会の旬をとらえている。ジェンダーに関する議論を、自分の例を見せたうえでどういう風に克服したかを書いてくれている。

それから、文章からも人柄がわかるよね。ぴりっとした文章、かっこいいなって思います。
内容もとても具体的で、この方が何をどうやったか、をつぶさに書かれているから、模倣性がある。同じように悩んでいる人が読んだ時に「こうやって、身の回りから変えていくことができるんだ」と勇気づけられると思います。

十数年経った最近になって、後の世代の女の子やそのお母さんたちが、スク水を着なくてもいいことに、とても感謝していたということを知り、思わず頬が緩んだ。

この方の行動に意味があったんだ、と思わせてくれるこのラストも、爽快感があり、まるで我が事のように喜べました。
書いてくださった事自体に「超いいね!」でした。

たくさんの素敵なご投稿を、本当にありがとうございました。現在は「あのルールを破れたら」「あの夏の挑戦」「『裏切り』の記憶」でエッセイを募集しています。みなさまからのご投稿、お待ちしております!