何年も前からずっと頭を離れない言葉がある。

忘れていたとか、思い出さないようにしていたとも違う。いつでも取り出せる場所で静かに身を潜めていたその言葉たちが、大人になってふと会いにきてくれることがある。子供の私では意味をちゃんと理解できず会話の邪魔にならないぐらいの相槌を打っていたけど、ようやく再会を果たした時、改めて心に刻み込まれたりする。

14年ぐらい前。まだAKBの活動がほとんど劇場公演だけだった頃。
当時の秋元先生の運転手である岩崎夏海さんから、その日の公演の感想ついでに言われた言葉。それは、私のコンプレックスの根元である“顔”についてだった。岩崎さんからのポジティブな言葉に対し、空になった客席をぼんやり眺めながら、心の中で何度も首を横に振り、表面上は曖昧に同調したことを今でも良く覚えている。

鼻が低い、歯並びが悪い、目が出てる、下膨れ――。自分の嫌いな箇所をあげたらキリがない。神に愛されて生まれてきたみたいに欠点のない整った顔のメンバーと並ぶ時、私は憂鬱で思いっきり顔をあげられなかった。

「あの子みたいな顔に生まれていればなぁ……」。
何度も何度も思った。祈った。人気が出ないことも全部顔のせいにした。

追い討ちをかけるようなネットの誹謗中傷。「ブス」ってシンプルなものから「顔さえよければな」って、微妙に捻ったものまで、私に届くと思わずに並べられた無責任な言葉にも自ら特攻して自爆する毎日だった。

「努力しなくちゃ」。歯列矯正、エステ…顔にかけたお金は計り知れない

“私は人より劣っているから努力をしなくちゃいけないんだ”
そう思ってからは色んなことに手を出した。歯列矯正。自分に似合うカラコン。顔の脂肪を減らすエステやら注射やら。こう見えて、顔にかけたお金は計り知れない。

少女漫画のヒロインみたいに少し奥に配置された目や、鼻筋の通った横顔、短い人中は手に入れることを諦めちゃったけど、私は少しずつ少しずつ自分の顔を受け入れられるようになった。

今振り返ると、私に自信をくれたきっかけはお金で買えるものばかりではなかった。
子供ながらに淡い恋心を寄せていた人からの深い意味はない「横顔好きだよ」だったし、嘘を言わない友達の「裸眼の方が好きかも」だった。応援してくれる人からの「みぃちゃんの顔になりたい」には素直になれなかったけど密かに救われていたし、相変わらず辞めることができないエゴサで見つけた「綺麗になったね」に勇気をもらっている。

今はこの顔が好きだし、悩んだおかげで手に入れられたものもあった

私は万人に受ける美人ではないけれど、この顔のおかげで少し変わったデザインのお洋服が似合う。大勢の中で見つけ出してもらえる。覚えてもらえる。ガチャピンって持ちネタも生まれたし、癖がある分、好きな人はすごく好きでいてくれるらしい。そんな珍味みたいな顔がちょっと好き。

顔に自信がないおかげで同じような悩みを持つ人の痛みに敏感になれたし、コンプレックスまみれの自分の心を救う為に 言葉という武装を身に付けられたことにも感謝している。

14年前のあの言葉。今なら否定せずに受け止められる


『峯岸は、この顔で良かったと思える日がいつか来るよ』

岩崎さんから言われた言葉、今ならちょっとだけ首を縦に触れる。

「美人」とか「可愛い」とか言われたらそりゃあ嬉しいけど、それが全てじゃなかったんだね。誰かに大切にされたり、自分で自分を認めてあげたり、そんなことを繰り返しながら私は私で良かったと思える今が一番幸せに思う。

橋本環奈ちゃんの顔になれるけど、どうする?って聞かれたら頭抱えて悩むけど、14年前の“誰でもいいから顔を取り替えて欲しい”って思っていた私に比べたら、確実に前を向けている。

言った方は忘れているであろう些細な会話の中の些細な言葉。
ようやく再会できたから、大事なものボックスに閉まってあげよう。

Tokyofm「峯岸みなみのやっぱり今日も褒められたい」

峯岸みなみさん

◇放送時間:木曜日21:00-21:30

◇出演者:峯岸みなみ(AKB48)

AKB48の1期生で、朝日新聞の女性向けWEBコラムサイト「かがみよかがみ」内でコラム連載を持つ峯岸みなみの新番組がスタート!アイドルとして15年の活動を経て、30歳という年齢が見えてきた一人の女性としてリスナーと本音で向き合う30分の番組です。一日の終わりくらいちょっと褒められたい。そんな思いを共有しませんか?