あの子との出会いは、中学三年生の春だった。
転校前から噂の彼女。唐突に言われた言葉に仲良くなれないと悟った
転校生が来ることは結構前から話題になっていた。田舎の中学校の話題なんてたかが知れていて、転校前から大盛り上がりだった。
噂の転校生は、私の後ろの席で、抱いた印象はやけに細くて白いなあとか、それくらいで、普通の女の子だった。皆、物珍しいものが好きで、転校初日から暫くは、彼女の周りは人で溢れていた。社交的ではない私は、自分から話し掛けることはしなかった。
いつかの休み時間だったか、忘れたけど、春の温かい日差しがカーテンの隙間から差し込んで、窓際の私の机にその光が黄色く映って、眩しくて、鬱陶しく思いながら席に座った私に、彼女は唐突に言い放った。
「ぽかぽかだね!」
そして悟った。ああ、私はこの子とは仲良くなれない。
彼女と私は積極的に関わることはなかったが、転校慣れしているのか、彼女は誰とでも平等に話して、いつも笑顔で、無口な私にも普通に話し掛けてくる。つるむことはなかったけど、何気ない会話を交わすことが増えた。彼女とわたしの距離は、近くも遠くもなかった。
そして新学期初めての中間テストを迎えた。勉強だけには自信のあった私は、毎回のテストの順位が発表されるのが一番の楽しみで、クラスでは必ず一番だった。
勉強のことで話す機会が増えたあの子。いつしか尊敬するようになった
二位だ。
一位は転校生のあの子だった。
屈辱だった。負けた。彼女は頭がずば抜けてよかった。自分が井の中の蛙であることを思い知らされた。小さい田舎の中学校の中でどれだけ好成績を修めようと、上には上がいるのだ。
受験も近くなり、私は勉強のことで彼女とよく話すようになった。私は彼女のことを尊敬していた。某有名少年漫画を知らないくらい世俗的でなくて、世間を知らない、穢れのない様な、純粋さそのものの様な彼女に対して、苦手意識は拭いきれなかったけど、私は少しずつ彼女と関わることが増えていった。逆に、転校当初群がっていた子たちはどんどん離れて行った。
そして志望していた同じ高校に入った。
高校生になってから、彼女はどんどん変わっていった。「いい子」から「面白い子」のキャラが確立されていって、友達が多かった。皆に「面白い」と言われる彼女を見て、クラスで浮いていた私は全く引け目を感じなかったわけではなかったけれど、やっぱり彼女は私と他の人と同様に接してくれた。それが嬉しかった。
休職していたある日、急にあの子に会いたくなった
高校を卒業して、大学生になってからは、連絡も取らないし、遊びに行こうと誘うような関係ではなかった。成人式の日に会ったくらいで、やはり近すぎず遠すぎずの関係だった。
そんな彼女とまた会うことになったのは、働き出して二年目、適応障害と診断されて休職していた時だった。なんとなく、彼女に会いたいと思ったのだ。そういえば、二人で遊ぶのは初めてだった。
地元の駅に着くと、彼女が車で迎えに来てくれた。久しぶりの再会に、特に感動はしなかったけど、疎遠になりがちな人間関係の中、会ってくれる人がいることが嬉しかった。
「なんか急に会いたくなって」
「なんで?」
「なんか、元気出そうだったから」
「なにそれ。どういうこと?」
「中学生の時にさあ、私に向かって『ぽかぽかだね』って言ったの覚えてる?なんかそれずっと覚えてて、気分下がるとあなたに会いたくなるんだよね」
「全然覚えてない!そんなこと言った?恥ずかしい」
「今ぽかぽかかもしれないわ」
「え、もしかして私って、××ちゃんの太陽?」
げらげら笑って長い時間話し込んだ後、「また合おう」と約束した
二人でげらげら笑って、お互い転職に悩んでいたこともあり、かなり長い時間話し込んだ。また会おうと約束して、一年が経つ。次は共通の友人の結婚式で会う予定だ。
彼女はすでに転職に成功している。
私はまだできていない。ずるずると日々を過ごしながら藻掻いている。彼女はいつも私の一歩先にいるような気がする。
落ち込んだ日は彼女のことを何となく思い出す。思い出すだけで連絡は取らないけど、会おうと言ったら彼女はきっと会ってくれるのだろう。頻繁に連絡を取り合う関係じゃなくても、程よい距離間だからこそ、安心して会える人の存在に救われている。
彼女は多分、何もしてくれないけど、何となく一緒に居てくれる、やっぱり太陽みたいな存在で、私の明日を少しだけ照らしてくれる。