157.5㎝。これは20~29歳の日本人女性の平均身長だ(2019年度の総務省のデータから)。

かくいうわたしの身長は150㎝で、平均身長を大きく下回っている。伸びなかった身長を恨んだことは数知れず。ただでさえ憂鬱な満員電車では、四方だけではなく酷いときは上からも押し潰され、高いところにあるものは自力で取れず足がつることもある。新しくパンツを買うときは、必ず丈を詰めるから、自然と服屋の選択肢は狭まる。

「身長が低いのを気にしている割に、ヒール履かないよね?」と言われ

そして、「身長が低いのを気にしている割に、ヒール履かないよね?」と言われる。そう言ってきたのは、前職で仲良くしていた同年代の男性だった。

仲が良い同僚たちで、休日に遊んでいた時。予約したビールバーに遅れていることに焦り、スマホ片手にフラットシューズで早足に歩くわたしの隣で、男はそう言った。

即座に「はぁ?」と顔を歪めたわたしに、男は何かはよく分からないけど地雷を踏んだことを察して「なーんて」と言って誤魔化そうとした。それで何もなかったことにするほど、わたしは聞き分けがいい人間ではない。

「ヒールだと、とっさの時に走れないから履かない」「『とっさ』って何?どういう時?」と男は少し馬鹿にするように、笑いながら聞いてきた。お前みたいなデリカシーのない人間から逃げる時だよとは言わずに、「駆け込み電車をする時とか」と答える。「別にヒールでも走れるでしょ」と男は返してきた。

そんな会話をするわたし達の隣を、タイミングよくスーツ姿の女性が追い抜いていった。彼女の足元はヒールで、片耳にはスマホがあった。きっと仕事で急いでいたのだろう。男はどこか自慢げに彼女の背中を指さした。「ヒールでも走れるじゃん」と。

わたしは自分の話をしていたのであって、偶然居合わせた女性の話なんてしてなかったのに。その後、男と何を話したのかは覚えていないが、いくらこと細く説明したところで、彼は何故わたしが怒ったのか、その理由を理解できなかったと思う。

小さい女性がヒールを履かないことを「可愛いアピール」と捉えられる

昔からヒールが苦手だ。特にそれが、“女性らしさ”と結びつき、「お前は女なんだからヒールを履け」という価値観を押し付けられた時は、叫びたくなる。「うるせぇ!」と。

ヒールを履くと色んなところが靴擦れになるし、足も痛くなる。疲労度は倍以上になり、何より上手く走れない。

この世には『走れるパンプス』と名の付くものが存在することは知っているが、結局はヒールのあるパンプスだ。それに、苦手なものをわざわざ選ぶ必要はない。他にも靴はある。

何もわたしは、自分が苦手で避けていることを指摘されたから怒ったのではない。男の言葉の続きが分かったからだ。

男の「身長が低いのを気にしている割に、ヒール履かないよね?」に続くのは――「気にしてるっていうのはただの建前で、結局は小さくて可愛いわたしアピールだろ?」という嘲笑だ。

どうも世の中には、小さい女性がヒールを履くことを“小さいことを気にしているからヒールを履いている、小さくて可愛いわたしアピール”と捉える人がいる。その人たちにとっては、逆にヒールを履いていなくても“小さいことを最大限利用している、小さくて可愛いわたしアピール”となるらしい。同年代の男はそう捉える人だった。

勝手な偏見で「○○だからこう」と判断するなんて、面倒くせぇ!

正直にいうと、これだ。面倒くせぇ。勝手な“偏見”を持ち込んで「○○だからこう」と判断するなんて。意図しないレッテルを貼られるのは不本意でしかない。わたしがヒールを履かないのは、動きを制限されるから、この一択でしかない。

というか、そもそもの問題として。身長が低いことをアピールして、何が悪い? 自分の魅力を分かっていて、それを最大限利用する女性は美しいと思う。そこには強さと自信がある。何より、本人が選んで身に着けているものを、他人が指をさしてとやかく言う権利はないのだ。

小さいことを気にしてヒールを履くのも、小さいことを気にしながらもヒールを履かないことも。そして、背が高いことを気にしてヒールを履かないことも、背が高くてもヒールを履くことも。すべては等しく美しく、自信に満ちているものであってほしい。

だからフラットシューズで、“小さくて可愛いアピール”を蹴飛ばしたい。そこから偏見を追い出したいから。