謝りたい人がいる。そのことを思い出したのは最近だ。
当時私は13歳で、彼女は同級生だった。

ごめんなさい。あの時エアコンの温度をいじったと告げ口したのは私です。

憧れの中学生になった私は、理想の学生生活に張り切っていた。勉強も部活も頑張って、クラスメイトや教師から一目置かれる存在になりたかった。

1つネックだったのが、問題児が集まるクラスだったことだ。学年が始まった当初から、やんちゃだった子たちが私のクラスに割と集まっているという噂は聞いていた。それもあってか誰も手を上げない学級委員決めの場、変に主体者意識の強い私は自ら立候補してしまった。

流されやすく無責任。そしてついに、他人に罪をなすりつけてしまった

それからの日々、意外にもクラスの問題児たちとなんとか上手くやっていけていた。個々人で関わると根っから腐ってる子なんて一人もいなくて、複雑ないろんな事情が結果的に学校での問題行動につながっているのだと、自分なりの答えに至った。しかし規律を正すべき学級委員が問題児と仲良くやれるということはつまり、私の中のずるさを肯定しているようなものでもあった。

実際、八方美人だった私はいかにも優等生ぶって、流されやすく無責任だった。明らかにルール違反な生徒の問題行動を注意することも、先生に報告することもしなかった。だけど事態が発覚したら、知ってたら止めたのにと悔しい表情の演技をして先生の心証を損なわないようにした。本当にいやなやつ。

そんな中、ついに明らかに間違ったことをした。他人に罪をなすりつけたのだ。

彼女は出しゃばるタイプではなかったけれど、芯があって優秀で、まさに模範的生徒。真面目一本だから、やんちゃな子にも筋を通して意見した。その彼女、Aさんこそ私が謝りたい相手である。

ニセモノの優等生の化けの皮はあっけなく剥がれた

ある夏の日、教室のクーラーの温度が規則よりも7℃も低いことに気づいた担任教師が犯人探しを始めた。私はBくんの仕業だと知っていたから、こっそり先生に告げ口した。

けれどなぜか誰かが言い出したことで、Aさんが裏切り者に祭り上げられた。チクリ魔というあだ名までつけられた。真犯人の私は、保身のために押し黙ってやり過ごした。

それでも周りに動じない彼女を見て、罪悪感と同時に安心を覚えたけれど、その後ちゃんと目を合わせることはできなかった。

先生にもいい顔をして、やんちゃな子たちにもいい顔をして、ボロが出ないわけがない。抜き打ちの持ち物検査が行われた日、ある生徒の鞄からインスタントカメラが没収された。そこに写っていたのは問題児たちと笑う私だ。言い逃れはできない。ニセモノの優等生の化けの皮はあっけなく剥がれ、私は担任教師からの信頼を失った。

幸いにもインスタントカメラの件の関係者はごくわずかだったし、その半年後に父の仕事の関係で引っ越したこともあって、大きな痛手だったけれど長くは続かなかった。逆に新しい生活での方が悩み事が多く、クーラー事件はすぐに記憶から遠のいてしまった。

「あのチクリ魔、まじでムカつくよな」その一言で私はすべてを思い出した

十数年ぶりに、同窓会があった。そこにはAさんの姿はなかった。話しかけてきたのはBくんで、あの頃が嘘のようにしっかりした社会人になっていた。昔話に花が咲く中で、彼は思い出したように言った。

「あのチクリ魔、まじでムカつくよな」

その一言で私はすべてを思い出した。そしてここにいない彼女にすぐにでも謝りたいと思った。せめての罪滅ぼしに、私はBくんにきちんと向き直ってこう言った。

「それ、Aさんがチクったんじゃないよ」

ごめんね。もうニセモノから卒業したはずなのに、まだ自分のことばっかり。それでも、調子がいいとは思うんだけど、もしまたいつか彼女に会えたなら本人にはすべて打ち明けて謝りたい。